「約束主義」とか「規約主義」といわれる。その基本的主張は、科学の理論にはなんらかの形で人間による約束事ないしは規約が入り込む、というものである。たとえば、一般相対性理論においては非ユークリッド幾何学が用いられるが、それは、宇宙が非ユークリッド的であるからではなく、非ユークリッド幾何学を用いたほうが理論が簡単になるからである、と考えるとき、それはコンベンショナリズムである。なぜならその場合、非ユークリッド幾何学が用いられるのは、理論を簡単にするために人間が行った一種の取決めにほかならない、と考えられているからである。また、科学の理論においては、直接的な実験観察にはかからない対象についての多くの概念が用いられているが、それらの概念(理論概念)の意味は、理論を構成する法則においてインプリシットに(暗黙のうちに)定義されるのだ、と考えるとき、それもやはりコンベンショナリズムである。なぜならこの場合、その理論を構成する法則は、実は、客観的事実を表しているのではなく、法則の形を借りて理論概念をインプリシットに定義しているのであって、そのような定義は、結局は、理論を簡単にするために人間が行った一種の取決めにほかならない、と考えられているからである。以上のように考える限り、コンベンショナリズムは、基本的には正しい主張であり、かつ、科学というものの基本的構造の一面をよく表しているといえよう。
[黒崎 宏]
『ポアンカレ著、吉田洋一訳『科学の価値』(岩波文庫)』
…〈約束主義〉〈便宜主義〉あるいは英語のまま〈コンベンショナリズム〉ともいう。科学的な法則や理論の真理性を論ずるに当たって,それを客観的実在の世界に求めず,取決めの結果として理解する立場を指す。…
※「コンベンショナリズム」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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