改訂新版 世界大百科事典 「サイイド」の意味・わかりやすい解説
サイイド
sayyid
〈長老〉などを意味するアラビア語。奴隷に対する主人,妻に対する夫などを指す語から転じて,集団の長老格の人物を指す。イスラム以前から最近まで遊牧民の長老はこの語で呼ばれ,またイスラム神秘主義教団の長老もまたこの語で呼ばれる。いずれの場合でも,権力をもった首長というより調整役を務める長老ともいうべき立場の人物を指す。この意味では,シャイフと同義である。一方,この語はシャリーフとともに,預言者ムハンマドの家族の子孫を指す。その家族の範囲やシャリーフとの区別は,時代や地方,宗派によりさまざまである。多くの場合は,シャリーフとともに,ムハンマドの血を直接に引くハサンとフサインの子孫を指す。サイイドであることによって特別な権利が与えられることは少なく,下層階級に属するサイイドも,いつの時代にも少なからずいる。ただ,緑のターバンをつけるなど,サイイドであることを誇る場合が多い。
執筆者:後藤 晃
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報