日本大百科全書(ニッポニカ) 「サチュリコン」の意味・わかりやすい解説
サチュリコン
さちゅりこん
Satyricon
ローマの詩人ペトロニウス作とされる古代の悪漢小説(ピカレスク)。エンコルピウスという若者がいかがわしい2人の同伴者とともに南イタリアを主舞台にさまざまな冒険を行う物語。現存するのはそのごく一部とみられ、解放奴隷出身の俗悪な成金トリマルキオの邸宅の宴会場面が主要部をなし、別名『トリマルキオの饗宴(きょうえん)』Cena Trimalchionisともよばれる。散文を主体としながら、同時代の叙事詩のパロディーと思われる韻文が混じる「メニッポス風」とよばれる特異な文体で書かれている。ギリシア伝奇小説をもじったもので、下層社会への異常な関心と俗物への痛烈な風刺で一貫し、ネロ帝治下ローマ社会の卑猥(ひわい)な一面が生々しく描き出される。ローマ文学史上異色の作品として知られるだけでなく、作中の人物が口にする卑俗な会話は希少なラテン俗語資料として重要である。
[松本克己]
『岩崎良三訳「サテュリコン」(『世界文学大系64』所収・1964・筑摩書房)』