葉が瓶子(へいし)体をつくり,落し穴式に小動物を捕らえる,北アメリカ東部原産の食虫植物。和名を瓶子草という。高さ30~90cm。茎は地表面をはい,葉は瓶子葉と剣葉の2形性である。瓶子体は獲物を奥部へ誘導し,かつはい出させないような仕組みとして,内部に密に逆毛をもつ。消化酵素を分泌しないので,微生物の助けで獲物の消化吸収を行う。春,1~3本の花茎を出し,頂端に下向きの,緑,黄または紫色の1花をつける。花弁と萼はともに5枚,子房は上位で,5室からなる。花柱は1本で,伸びて傘状となり,端に5個の柱頭をもつ。おしべは多数。日照のよい湿地を好み,野火跡に適応した植物ともいわれる。草食家畜がまったく口にしないため,湿地性牧場で大繁殖することがある。8原種と,多数の自然および人工種間雑種があり,観賞用植物として栽培される。耐寒性があり,暑さにも強い。ミズゴケなどでくるんで植え,水を十分にやると良い。制癌物質が含有されるといわれ,アメリカ合衆国で研究が盛んである。
サラセニア科は,サラセニア属のほかに,アメリカ合衆国カリフォルニア,オレゴン両州原産で1属1種のランチュウソウDarlingtonia californica Torr.と,南アメリカのギアナ,ベネズエラ原産で約10種からなるキツネノメシガイソウ属Heliamphoraがある。すべて瓶子葉をもつ食虫植物である。
執筆者:近藤 勝彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
サラセニア科(APG分類:サラセニア科)サラセニア属の総称。多年生の食虫植物で、8~9種が知られている。North American pitcher plantなどの英名がある。らっぱ状の葉を瓶子(へいし)(口が細長い瓶)に見立て、和名をヘイシソウという。アメリカのアパラチア山脈東側の丘陵地の沼地がおもな生育地である。茎は地表をはい、根茎がある。葉は根生し、らっぱ状の筒形を呈し、緑色に赤色ないし紫色または白色の脈や斑紋(はんもん)がある。上端は蓋(ふた)状の葉片があり、その裏面の蜜腺(みつせん)から分泌する蜜で虫を誘う。筒の内面上部には逆毛があって、下部に落ちた虫は脱出しにくい。これを有機酸や消化酵素で消化する。花は黄色または白色で、4~5月、無葉の花茎の先に1個下向きに開く。花弁は5枚で数日で落ちるが、萼片(がくへん)は革質で長く残る。雌しべの上部は洋傘を広げた形となり大きい。
[冨樫 誠 2021年4月16日]
サラセニア科SarraceniaceaeはAPG分類でもサラセニア科とされる。この分類によると、南北アメリカ大陸に3属32種がある。すべて食虫植物であり、園芸植物としても人気がある。
[編集部 2021年4月16日]
ミズゴケなど保水力のある用土で鉢植えにする。耐寒性はあるが寒風には弱い。用土の温度を安定させて、茎と根茎を伸長させる。植え替えは春から夏までで、芽が動く前の春先が適期である。開花株は開花後か翌春に行う。肥料は春から夏に、油かすなどを施す。繁殖は実生(みしょう)、株分けにより、実生は秋、株分けは植え替え期に行う。
一時、根茎が天然痘の特効薬といわれたり、強壮剤、健胃剤として利用されたりしたことがあったが、現在は利用されない。
[冨樫 誠 2021年4月16日]
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…すべて独立栄養者として,葉や茎にクロロフィルをもち光合成を行う一方,従属栄養的な性質ももち,獲物の小動物から窒素やリン等を摂取する。世界で,モウセンゴケ科(モウセンゴケ属約90種,モウセンゴケモドキ属1種,ハエトリグサ属1種,ムジナモ属1種),サラセニア科(サラセニア属8種,ランチュウソウ属1種,キツネノメシガイソウ属約10種),ウツボカズラ科(ウツボカズラ属約70種),フクロユキノシタ科(フクロユキノシタ属1種),ビブリス科(ビブリス属2種),ディオンコフィル科(トリフィオフィルム属1種),タヌキモ科(ムシトリスミレ属47種,タヌキモ属約150種,ゲンリセア属約15種,ビオブラリア属1種,ポリポンポリックス属2種)が知られる。日本にも2科4属21種の自生が認められる。…
※「サラセニア」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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