ロシアの作家アルツィバーシェフの長編小説。1907年刊。発表されるや、その大胆な性愛描写と自由恋愛の主張によってセンセーションを巻き起こした。一地方都市の青年群像が、ことに革命運動に加わったかどで首都から追放されて故郷に帰ってきたユーリーと主人公サーニンとが対照的に描かれることで、話が進められる。活動の場を失ったユーリーは生の無意味さと自分のちっぽけさを自覚して、最後には自殺する。サーニンは肉体の解放、自然な欲望の充足を主張して、実践する。「無制限に恋愛を享楽すべきです……恋愛の形式そのものも、偶然と突然と結合との限りない連鎖へと広がっていくでしょう」と。サーニンはユーリーの恋人カルサービナを暴力的に犯す。
[小平 武]
『中村白葉訳『サーニン』全2冊(岩波文庫)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…自由主義的な社会批判の色濃い短編小説作家として,1901年文壇に登場したが,05年の革命以後,ロシア・インテリゲンチャの挫折感を反映した作品を書き,性と暴力と死の描写にもっぱら取り組んだ。自由恋愛と肉欲の解放を説いた長編小説《サーニン》(1907)は〈性の解放〉を主張する20世紀ヨーロッパ文学一般の時流に投じ,世界的なセンセーションを呼んだ。アルツィバーシェフは,ニーチェ風の個人主義,アンドレーエフ流のニヒリズム,ロシア象徴派の〈愛と死の神秘思想〉の影響を受けた典型的なモダニズムの作家であるが,他方トルストイやドストエフスキーの影響も強く(例えば小説《ランデの死》(1904)におけるムイシキン公爵的主人公の唱える悪に対する無抵抗),《サーニン》も自らの感覚的欲望に忠実であれという主張の是非は別として,ロシアの求道者文学の伝統のうえにある作品である。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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