鬼子母神(読み)キシモジン

デジタル大辞泉 「鬼子母神」の意味・読み・例文・類語

きしも‐じん【鬼子母神】

《〈梵〉Hārītīの訳。音写は訶梨帝かりてい》女神の名。千人の子があったが、他人の子を取って食い殺したため、仏はその最愛の一児を隠してこれを教化し、のち仏に帰依きえして出産・育児の神となった。手にザクロの実を持ち、一児を抱く天女の姿をとる。訶梨帝母かりていも。きしも。きしぼじん。

きしぼ‐じん【鬼子母神】

きしもじん(鬼子母神)

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精選版 日本国語大辞典 「鬼子母神」の意味・読み・例文・類語

きしぼ‐じん【鬼子母神】

  1. ( [梵語] Hārītī (訶梨帝)の意訳 )
  2. [ 1 ] 仏教で、女神の名。経典によって多少の相違があるが、鬼子母経によれば、千人の子があり、五百は天上、五百は世間にあり、最小の子を愛奴(経によって嬪伽羅という)と名づけ憐愛した。鬼子母は性質邪悪で、常に他人の子どもを殺して食べたため、仏はこれを教化しようと愛奴を隠したので、鬼子母は探し求めることができず、悲嘆にくれた。そこで仏は、汝は千人中ただ一子を失うにさえ悲嘆懊悩するのに、汝に子を食われた親達の胸中はいかばかりか、と説いて、子を返した。以後鬼子母は、仏に帰依し、誓願を立て、産生と保育の神(ときには盗難除の守護)となる。手に吉祥果(ざくろ)を持つ天女の姿をとる。律宗、特に日蓮宗が信仰する。きしぼ。きしも。きぼ。きちもじん。きしもじん。鬼子母善神。
    1. 鬼子母神<b>[ 一 ]</b>〈仏像図彙〉
      鬼子母神[ 一 ]〈仏像図彙〉
    2. [初出の実例]「不思議や鬼子母神(キシボジン)・十羅刹女、容を現わし給ひ」(出典:浮世草子・新色五巻書(1698)五)
  3. [ 2 ] 〘 名詞 〙 転じて、子どもを多く生んだ女性。
    1. [初出の実例]「せんたくに井戸をかへほす鬼子母神」(出典:雑俳・柳多留拾遺(1801)巻一〇)

きしも‐じん【鬼子母神】

  1. きしぼじん(鬼子母神)[ 一 ]〔書言字考節用集(1717)〕

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改訂新版 世界大百科事典 「鬼子母神」の意味・わかりやすい解説

鬼子母神 (きしもじん)

鬼子母とは,鬼神槃闍迦(はんじやか)の妻が,1万の子(500人,1000人の子とする説もある)の母であるところの呼称。サンスクリットハーリティー(訶梨帝)の漢訳。訶梨帝母(かりていも)ともいう。鬼子母ははじめ邪悪で,他人の幼児を奪い食べていた。仏はこれを戒めるため鬼子母の一子を隠した。悲嘆限りない鬼子母が仏にその子を尋ねると,子を失う悲しみは,鬼子母が食べた子の母の悲しみであると,鬼子母を責め戒めた。ここにおいて,鬼子母は仏に帰依し善神となり,鬼子母神としてあがめられるようになったという。インドでは,とりわけ子授け・安産・子育ての神としてまつられ,日本でも密教の盛行にともない,小児の息災や福徳を求めて,鬼子母神を本尊とする訶梨帝母法が修せられたり,上層貴族の間では,出産のおり,安産を願って訶梨帝母像をまつり,訶梨帝母法を修している。その形像は,天女像で,左手で懐に一子を抱き,右手に吉祥果(きつしようか)(ザクロが多い)をもつ端麗豊満な姿態。いっぽう,《法華経》には,十羅刹女(じゆうらせつによ)とともに鬼子母が,法華信奉者の擁護と法華信仰弘通を妨げる者の処罰とを誓っている。日蓮はこれにもとづき文字で表現した曼荼羅本尊に鬼子母神の号を連ね,鬼子母と十羅刹女に母子の関係を設定している。このことが,曼荼羅諸尊の彫像化や絵像化がすすむなかで,法華信奉者の守護神としての鬼子母神の単独表現のもととなった。やがて,近世初頭から盛んになる日蓮宗修法の本尊として鬼子母神が定められ,しかも独特な忿怒形(ふんぬぎよう)の鬼形として造顕された。鬼形に総髪合掌形と有角抱児形があるが,千葉中山法華経寺系の修法が中心になったため,総髪合掌形が広まった。さらに旧来の天女形も作られ,鬼形は破邪調伏,天女形は安産子育てとされた。日蓮宗では中山法華経寺,東京雑司谷(ぞうしがや)の法明(ほうみよう)寺の鬼子母神が著名であり,ほかに法華宗本門流所属の東京入谷(いりや)の真源寺のそれも,〈恐れ入谷の鬼子母神〉と喧伝されてきた。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「鬼子母神」の意味・わかりやすい解説

鬼子母神(きしもじん)
きしもじん

インドの鬼女神。サンスクリット名をハリーティーHarītīという。訶利帝(かりてい)、訶利底と音写し、訶梨帝母ともいう。青色鬼と意訳するのは、原語のharitに緑、緑青、緑黄の義があるためである。また、悪女と訳すのは、原語をhāriよりの派生語とみなし、これに誘惑、敗北の義があるからである。この鬼女は王舎城(おうしゃじょう)または大兜国(だいとこく)などのもので、父も母も鬼神・鬼女で、夫般闍迦(はんじゃか)(パーンティカPāñcika)も鬼神王であった。この悪因縁のもとに500人(9子、7子、5子、1000人など諸説あり)の子を得た。鬼子母は、これらの子を養うために、日夜、王舎城内の子を盗んでわが子に与え、王舎城には悲しみの泣き声が絶えなかった。ある人がこれを釈尊に告げたところ、釈尊は末子の嬪伽羅(ひんぎゃら)(プリヤンカラPirigala。青目子(しょうもくし))を取って隠してしまった。鬼子母は悩み悲しみ、このことを釈尊に問い、なんぴとも子の愛すべきを戒められて悔悟し、ついに三帰・五戒(三宝すなわち仏法僧に帰依(きえ)し、五つの戒を身に保つこと)を受けて仏弟子となり、のち安産・子育ての善神となった。鬼子母の故地は玄奘(げんじょう)の『大唐西域記(だいとうさいいきき)』にみられる西北インド大兜国のあたりとみられ、おそらくは飢饉(ききん)時の実在の婦女と思われる。13世紀に北インドで仏教が滅亡したあとも、東インドなどで信仰され、エローラ、カリンガパトナムにその像がある。中国、日本でも広く信仰され、とくに日蓮(にちれん)宗で重要視される。東京・雑司ヶ谷(ぞうしがや)および入谷(いりや)の鬼子母神は有名である。その形像は一般に、右手に一児を抱き、あるいは吉祥果(きちじょうか)(石榴(ざくろ)ともいう)を持つ天女形である。

[金岡秀友]


鬼子母神(きしぼじん)
きしぼじん

鬼子母神

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「鬼子母神」の意味・わかりやすい解説

鬼子母神
きしもじん

仏教の守護神。サンスクリット語でハーリーティー Hārītīといわれる鬼女。訶梨帝母 (かりていも) ,歓喜母ともいう。仏教の伝説によると,釈尊在世の頃,この鬼女が王舎城に出現して,民衆の子供を奪い食ったが,釈尊に教導され,五戒を受け,以後王舎城の守護神となったといわれる。日本では主として,安産,保育の神として信仰され,ときに盗難よけの神ともされる。しかし仏教に取入れられる以前のインドでは生産の神として信仰されたと考えられる。単独で信仰されるほか,密教では普賢十羅刹女 (ふげんじゅうらせつにょ) 図中にも加えられる。像容は天女形と鬼神形とがある。京都醍醐寺蔵の『訶梨帝母像』は柔和でふくよかな容貌で,宋画の影響を受けた 12世紀後半の仏画の新傾向を示す遺例。彫像は滋賀園城寺,東大寺などにすぐれた遺品がある。東京の法明寺は「雑司ヶ谷の鬼子母神」として有名。

鬼子母神
きしぼじん

鬼子母神」のページをご覧ください。

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百科事典マイペディア 「鬼子母神」の意味・わかりやすい解説

鬼子母神【きしもじん】

訶利帝母(かりていも)の訳。歓喜母,愛子母とも。仏教を守護する善女神の一人。多くの子をもっていたが,常に他人の子を奪って食べるので,仏が鬼子母の子を隠して,子を食う罪をさとした。以後仏教に帰依し,その守護神となったという。日本では法華経の行者を守護する善女神とされ,とくに日蓮宗の守護神として崇敬された。

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デジタル大辞泉プラス 「鬼子母神」の解説

鬼子母神(きしもじん)

安東能明による小説。2000年、第1回ホラーサスペンス大賞にて特別賞受賞。2001年刊行。同年、テレビ朝日系列にてドラマ化。代理ミュンヒハウゼン症候群をテーマとする。

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世界大百科事典(旧版)内の鬼子母神の言及

【入谷】より

…当時,切花や鉢物の栽培地として知られていたが,幕末までにその中心は,西新井(足立区)や鹿骨(ししぼね)(江戸川区)へ移った。しかし明治以後開かれるようになった入谷の鬼子母神(真源寺)の朝顔市(鉢物市)は毎年7月6~8日に行われ,地口の〈恐れ入谷の鬼子母神〉とともに知られている。現在の行政地名としての入谷は,営団地下鉄日比谷線の入谷駅北東側一帯で,商店,住宅,工場が混在しており,家具製造業が盛んである。…

【鬼】より

…餓鬼は細いのどや膨張した腹をもつ気味悪い存在であるが,人間に悪事をふるうほどの力はない。幼児を取って食うという女神ハーリティーHāritīが鬼子母神と漢訳されている。この女神はのちに幼児の保護者となるが,改悛前の恐ろしい姿が鬼という言葉と結びつけられている。…

【ザクロ(石榴∥柘榴)】より

…また,根や樹皮はアルカロイドのペレチエリンpelletierineを含有し,駆虫薬として用いられ,また果皮は下痢止めに利用された。【松井 仁】
[民俗]
 鬼子母神は子授け,安産,育児の神として,とくに日蓮宗の寺で信仰され,ザクロの絵馬を奉納して,祈願したり礼参りをする風は広い。鬼子母神はもと鬼神王の妻で,1000人の子どもを産んだが,他人の子を取って食うため,仏が最愛の末子を隠して悔い改めさせ,安産の守護神となったという伝説に基づいて,鬼子母神には人肉の味のするというザクロが奉納されるようになった。…

【母子神信仰】より

…そのカトリックが日本に伝来し,江戸幕府によって禁圧された際,マリア信仰は観音信仰と習合しマリア観音という特異な母子神信仰を生みだした。日本の母子神信仰では,この観音とともに鬼子母神(きしもじん)が出産・育児と結びつく代表的な崇拝対象である。なお,1970年代後半から,水子(みずこ)を抱く地蔵像が全国の祈禱寺院を中心に急速に普及しはじめた。…

※「鬼子母神」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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