日本大百科全書(ニッポニカ) 「シタバガ」の意味・わかりやすい解説
シタバガ
したばが / 下翅蛾
昆虫綱鱗翅(りんし)目ヤガ科のうちの分類学上の一群をさす総称。狭義にはシタバガ属Catocalaのことをいい、広義にはシタバガ亜科Catocalinaeをいう。シタバガ属は、属名のままカトカラと通称され、世界に約200種、日本には29種が分布する。これらのガは、前翅は樹皮状の暗い隠蔽(いんぺい)色で、樹幹によく静止しているが、飛び立つときに、黄色や赤色、まれには白色の後翅を現す。日本の種はキシタバ、ベニシタバ、シロシタバのようによばれ、大形で、多彩な斑紋(はんもん)があるなど収集家に喜ばれる。温帯のガで、幼虫は種ごとに特定の広葉樹や低木類につき、ブナ科やバラ科植物を食草とするものが多い。すべて年1化性で、卵で越冬する。
シタバガ亜科は、シタバガ属を含め、さらに近縁の属をも包括する一群として定義され、世界に多数の種を分布し、むしろ亜熱帯や熱帯地方によく適応する。ヤガ科のなかでは大形で、美しい斑紋を示すものはこの亜科に多く、日本には約80種が記録されている。琉球(りゅうきゅう)諸島には本土に産しない特産種もあり、季節風や台風にのってまれに日本に侵入する南方系の種も知られている。ヨコヅナトモエはその一例で、はねの開張約110ミリメートルで、前翅に大きな渦巻状の紋を備え、遠く岩手県まで北上した記録もある。九州南部から沖縄本島北部までの島々に産するベニモンコノハは、はねの開張約120ミリメートル、黒色の後翅に大きな赤色紋を有し、日本最大のヤガとして知られる。
[杉 繁郎]