日本大百科全書(ニッポニカ) 「シタムシ」の意味・わかりやすい解説
シタムシ
したむし / 舌虫
動物分類学上、舌形(したがた)動物門Linguatulidaに属する動物の総称。すべて寄生性で、宿主はイヌ、ヤギ、ウサギ、オオカミ、キツネなどの哺乳(ほにゅう)類のほか、カモメなどの鳥類、ワニ、ヘビ、ヤモリなどの爬虫(はちゅう)類、各種のカエル(両生類)である。体は円筒形ないしやや扁平(へんぺい)で、頭胸部と16~130体節からなる胴部に分けられる。頭部には2対のいぼ足があり、それらの先端には鋭い鉤(かぎ)づめがある。高等な種類ではいぼ足はそれぞれ嚢(のう)状部に引き込まれ、宿主から離した状態では単なるくぼみになっているため、頭部に口が五つあるようにみえる。目はない。胴部は後方に向かって細くなり、末端に2本の突起があるが、各体節には付属肢はない。消化管は口から肛門(こうもん)まで前腸、中腸、後腸に分けられるが、全長にわたって単純な直管である。口は食道とともに宿主の体液や粘液をポンプのように吸引するだけの構造である。肺に寄生して血液を吸えば赤くなり、またイヌの鼻腔(びこう)に寄生すれば鼻粘液を吸って緑色になる。雌雄異体で、雄は雌より小さい。原始的と考えられる種類では体が短く(たとえば、南アメリカのアルゼンチン産のヘビの肺に寄生する種では約1センチメートル)、高等な種類では長い(たとえば、アフリカのエチオピア産の大形ヘビに寄生するものでは30~45センチメートル)。生殖孔は一つで、雄では胴の始部腹面、雌では種類によって雄と同じ位置か肛門の近くに開く。
シタムシ類は約60種知られているが、もっともよく知られているのはイヌシタムシLinguatula taenioidesで、飼いイヌの鼻腔粘液中にごく普通にみいだされる。ときにはオオカミやキツネ、あるいはウサギやヤギなどの草食動物、ヒトにもみつかり、鼻粘膜にカタル性の刺激を引き起こす。雌は体長13センチメートルに達するが、雄は約2センチメートルにすぎない。体は平らな舌状で、後方が狭まる。体表には90個に達する表面的な環節がある。体の前端には1対の短い感覚乳頭がある。また、口はキチン環で取り囲まれ、吸血に適している。受精卵は粘膜とともに外に出てウサギや反芻(はんすう)類の草食動物、雑食性の小哺乳類、両生類、魚類などの体内に入り、肺、肝臓、腸などで被嚢幼虫となる。約6か月の間に9回脱皮して0.5ミリメートルほどの幼虫になるが、これが終宿主に食べられると成虫になる。成虫の雌は約15日間に少なくとも100万個の卵を産むといわれる。
[武田正倫]