翻訳|sea power
海洋力と訳されることも多い。第2次大戦前は,海上権力と訳された。国家が海洋を利用し海洋を支配するための総合的な力をいい,軍事力以外の要素も含む。アメリカの海軍戦略家A.T.マハンが《海上権力史論The Influence of Sea Power upon History,1660-1783》(1890)で最初に用いた。マハンは歴史を分析し,海洋に面した国家の繁栄は,商品の生産,海運,植民地の連環する3要素によってもたらされたとし,海軍力は商業の保護のために存在するとした。シーパワーの構成要素として,優勢な海軍力,商船隊,海外基地をあげ,シーパワーの形成に影響を及ぼす一般的条件として,地球上の位置,国土の自然の形態,海岸線の長さと特性,海上勤務可能な人口,国民性や素質,政府の政策と性格の6条件をあげた。
現代は,科学技術の発達によって,海軍力の主役は戦艦から航空母艦,潜水艦等へ移行し,海軍力の使命も,有事における制海の獲得のみならず,平時における政治的影響力の行使が重要となり,戦略的に重要な海洋におけるプレゼンスと力のバランス維持が重要な任務となった。さらに国際政治の状況等も影響して,冷戦下では米ソ2大国が全世界的視野で,他の国は自国周辺の海洋における優位確保に努めてきたのが実態である。シーパワーは,とくに海洋国の生存と繁栄にとって,海上交通路の安全確保のみならず,新たに海底資源の確保のためにも重要となり,構成要素も優勢な航空勢力と情報偵察能力,および海洋調査能力等が必要となっている。
執筆者:田尻 正司
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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