ジェンナー(読み)じぇんなー(英語表記)Edward Jenner

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ジェンナー」の意味・わかりやすい解説

ジェンナー
じぇんなー
Edward Jenner
(1749―1823)

イギリスの医師。牧師三男としてバークリーに生まれる。14歳のときよりブリストルに近いソドバリーの開業医の下で7年間修業する。その間に、ある女性の患者から、「かつて牛痘ウシ痘疹(とうしん)のできる病気。人にも感染し痘疹ができるが軽症)にかかった人は、痘瘡(とうそう)(天然痘)にかからない」という話を聞く。21歳のときロンドンに出て、当時の有名な外科医で解剖学者・博物学者のJ・ハンター師事。24歳のときバークリーに帰って医院を開業した。

 当時は、痘瘡の流行が著しく、多数の人々が痘瘡で死亡した。その対策として、痘瘡患者の痘疹の材料を人の皮膚に植え付けて感染させるという危険な方法が行われていた。ジェンナーはソドバリーで聞いた患者の話をヒントにして調査を始め、まず牛痘にかかったことのある人が痘瘡にかからないことを確かめた。1796年5月14日、牛痘にかかっていたある娘の痘疹の材料をフィップスJames Phipps(1788―1853)という、およそ8歳の少年の腕に接種した。やがて自然感染の場合と同様の痘疹ができて治癒した。その後、この少年に痘瘡の材料を植えたが、つかなかった。すなわち、牛痘の病原体が人から人に伝達できること、また、牛痘にかかって治った人は痘瘡にかからないこと、が実験的に証明された。その後も同様の実験を重ねて、1798年に論文として発表した。この方法は、牛痘種痘法とよばれ、痘瘡の予防に安全で効果のある方法であることが認められ、広く世界で行われるようになった。

 その後もバークリーで種痘普及に尽くし、1823年1月26日に73歳で死去した。カッコウ生態、鳥の渡りの習性など博物学についても優れた発見をしている。

 1980年、世界保健機関(WHO)は、世界から痘瘡を根絶させたと宣言した。これは種痘を組織的に普及させたことによる。日本を含め世界的に種痘に用いられてきたウイルスは、ワクチニアウイルスVaccinia virusとよばれるもので、牛痘ウイルスではない。ジェンナーの時代に種痘に用いられたウイルスが、そのいずれであったのかは不明である。ジェンナーの発明は、その後のすべてのワクチン開発の基礎となったものであり、免疫学原点ともいわれている。

[加藤四郎]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ジェンナー」の意味・わかりやすい解説

ジェンナー
Jenner, Edward

[生]1749.5.17. バークリー
[没]1823.1.26. バークリー
イギリスの医師,博物学者。種痘の発見者。牧師の3男に生れ,15歳の頃から医学を学び,1770年ロンドンに出て,名医 J.ハンターに師事,3年後郷里で開業した。その頃牛痘にかかった農婦は痘瘡 (天然痘) にはかからないという経験に基づいて研究を進め,96年5月 14日ジェームス・フィップスという8歳の男児の腕に牛痘にかかった乳しぼりの女の手のおできの膿を接種した。その後7月1日この少年に真性痘瘡毒を接種したが発病はなく,牛痘で痘瘡が予防できることを証明した。こうして多くの感染症の予防接種の出発点となった種痘法が生れた。

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