翻訳|immunology
免疫現象を解明するための学問分野。感染症の予防と治療に医学の関心が集まっていた時代には,病原微生物の駆除に関与する液性,細胞性の因子に研究が集中していた。しかし,免疫なる現象が生体の恒常性を守る生物固有の機構であるという認識が確立された現在では,免疫現象のさまざまな側面を解明する基礎科学として,さらに免疫反応によって起こるさまざまな病的現象を解明し,治療に応用するための臨床免疫学をも含めた総合的な学問分野として発展しつつある。ただし,免疫学が一つの独立した学問として成立したのは比較的最近で,たかだか数十年の歴史といってよい。なお,免疫学の前史については〈免疫〉の項を参照されたい。
免疫学は以下のように,多くの分野から構成されている。
(1)血清学 もともと免疫学は,体液性免疫の主役をなす抗体の,試験管内反応の現象論(血清反応)を解明する〈血清学〉として発展した。血清反応は,きわめて鋭敏に,抗原や抗体を検出することができるので,放射性同位体や酵素反応と組み合わせて,診断,臨床検査,成分分析や微量物質の検出などに広く用いられている。ことに最近のモノクローナル抗体,すなわち細胞工学的方法によって人工的な細胞に産生させた均質な抗体が入手できるようになって,血清学的反応を応用した研究は長足の進歩をとげた。
(2)免疫化学 抗体分子の化学,さらには抗体と反応する抗原の分子構造の解析を行う分野で,抗体分子の構造や化学反応論などで重要な成果をあげている。
(3)免疫薬理学 免疫応答や病的免疫応答を調節する薬剤の開発や合成を目的とする分野で,抗体および免疫細胞が引き起こす生体の機能的変化を定量的に測定し,反応物質を決定するために生理学的・薬理学的手法が導入されている。
(4)細胞免疫学 抗体の産生機構,免疫応答を起こすための細胞性機構や調節機構を解明することを目的とする分野で,現代免疫学の爆発的な発展のもとをつくった。
(5)免疫遺伝学 免疫応答性を支配している遺伝子の解析,調節遺伝子,細胞表面に検出される特定の遺伝子産物の解析,さらには,それら遺伝子の単離や構造解析を行おうとしている。
(6)免疫病理学 さまざまな病的状態における免疫現象を細胞,組織,臓器のレベルで解明する分野で,形態学的基礎に立って,病的ならびに生理的免疫反応を解析している。
(7)臨床免疫学 免疫応答の異常によって,さまざまな病気が起こる。これらの病気の病因,病態,治療法を追究している分野で,このうち,いわゆるアレルギー性疾患について解明しようとしているのが〈アレルギー学〉である。
これらのさまざまなアプローチを総合することによって,免疫現象の本体が解明されていくであろう。
執筆者:多田 富雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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