スティルレル
すてぃるれる
Mauritz Stiller
(1883―1928)
スウェーデンの映画監督。フィンランドに生まれる。のちスウェーデンに移って、初め俳優、1912年映画監督に転じた。スリラーや喜劇をつくったのち、『吹雪(ふぶき)の夜』(1919)で一躍シェーストレームと並ぶスウェーデン無声映画の代表的監督となった。これは、16世紀末、牢獄(ろうごく)から逃れたスコットランドの軍人たちが帰国しようとしてデンマークの港町で財宝を盗み、逃亡中、氷原に命を捨てる悲壮な叙事詩的作品で、ラーゲルレーブの小説をもとにしながら、自然=人間の一体的描写がとくに優れている。彼は大女優グレタ・ガルボの発見者として有名だが、アメリカに渡り、『帝国ホテル』(1926)の名作をつくったのちは不振が続き、惜しくも早死にした。
[飯島 正]
運命の焔 Sången om den eldröda blomman(1919)
吹雪の夜 Herr Arnes pengar(1919)
呪の絆 Fiskebyn(1920)
イエスタ・ベルリングの伝説 Gösta Berlings saga(1924)
帝国ホテル Hotel Imperial(1926)
罪に立つ女 The Woman on Trial(1927)
罪の街 Street of Sin(1928)
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スティルレル
Mauritz Stiller
生没年:1883-1928
スウェーデンの映画監督。ロシア系ユダヤ人の子としてフィンランドの首都ヘルシンキに生まれる。ノーベル賞受賞の女流作家セルマ・ラーゲルレーブの小説を次々に映画化し(《運命の焰》1919,《吹雪の夜》1919,《呪の絆》1920,《グンナール・ヘデ物語》1923,《イェスタ・ベルリング物語》1924),ビクトル・シェースレームと並んでスウェーデン映画の最初の黄金時代を築く。舞台で発見した女優グレタ・グスタフソン(のちのガルボ)を起用した《イェスタ・ベルリング物語》をベルリンで見たMGMの副社長ルイス・B.メイヤーに認められ,1925年,ガルボを伴ってハリウッドに〈輸入〉され,ポーラ・ネグリ主演の《帝国ホテル》(1926)など4本の映画をつくったが,芸術家気質と完全主義がハリウッドの風潮に合わず(ガルボ主演の《明眸罪あり》(1926)の監督は途中で下ろされている),スターへの道をあゆんでいくガルボとは反対に,失意のうちに帰国して45歳で病死した。
執筆者:柏倉 昌美
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
スティルレル
Stiller, Mauritz
[生]1883.7.17. ヘルシンキ
[没]1928.11.8. ストックホルム
スウェーデン無声映画時代を代表する監督。 V.シェーストレムとともに優れた映画美を表現し,洗練された風俗喜劇も発表した。主作品『吹雪の夜』 Herr Arnes penningar (1919) ,『エロティコン』 Erotikon (1920) ,『イェスタ・ベルリング物語』 Gösta Berlings saga (1924) 。
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世界大百科事典(旧版)内のスティルレルの言及
【ガルボ】より
…ストックホルムに生まれ,奨学資金を得て王立演劇アカデミーで学ぶ。[M.スティルレル]の大作《イェスタ・ベルリングの伝説》(1924)に抜擢(ばつてき)され,さらにG.W.パプストのドイツ映画《喜びなき街》(1925)にも出演。スウェーデン映画の黄金時代をささえていたスティルレルとのかかわりは,〈ピグマリオンとガラテア〉あるいは〈スベンガリとトリルビー〉にたとえられ,スティルレルについてハリウッドへ〈輸入〉される。…
【スウェーデン映画】より
…ジョルジュ・サドゥールをはじめ,世界の映画史家がスウェーデン映画をその北欧的な〈神秘主義〉によって定義している。レスリー・ハリウェルはそれを〈ロマンティックなペシミズム〉と言い換えているが,いずれにせよ,そうした傾向は伝説と現実の微妙な交錯を特色としたスウェーデンの女流作家ラーゲルレーブの小説を〈感動的な造形美〉に転化したビクトル・[シェーストレーム](《沼の家の娘》1917,《霊魂の不滅》1920)とマウリッツ・[スティルレル](《吹雪の夜》1919,《イェスタ・ベルリング物語》1924)によっていち早く世界に知られ,サイレント映画史の輝かしい1ページを飾った。しかし,1920年代半ばにはこの2人はハリウッドに吸収され(デビュー当初のグレタ・ガルボもいっしょに連れ去られた),そしてやがてトーキー時代に入るや,少数言語であるスウェーデン語の映画は海外市場への進出を阻まれ,こうして40年代末までスウェーデン映画にはほとんど空白の時代が続くことになる。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」