日本大百科全書(ニッポニカ) 「ラーゲルレーブ」の意味・わかりやすい解説
ラーゲルレーブ
らーげるれーぶ
Selma Ottiliana Lovisa Lagerlöf
(1858―1940)
スウェーデンの女流作家。風光明媚(めいび)なベルムランド地方、モールバッカの地主の家に生まれる。この家はいったん人手に渡るが、のちに買い戻し、ここで晩年を過ごす。現在はラーゲルレーブ記念館。女学校教師時代、懸賞小説の応募作品『イェスタ・ベルリング物語』(1891)が当選し一躍有名になる。酒のため教会を追われる牧師イェスタ・ベルリングを主人公に、郷里の民話、伝説をちりばめた長編小説で、社会の有閑分子が勤労と奉仕の生活に目覚めるのがテーマであるが、彼女の詩情豊かな文章は教訓臭を脱している。ついで短編集『見えざる絆(きずな)』(1894)ののち、イタリア、エジプト、パレスチナへ旅行、二部作の長編小説『エルサレム』(1901~02)で文壇的地歩を築く。『ニルスのふしぎな旅』(1906~07)発表後、1909年、スウェーデン女性として初のノーベル文学賞を受賞。14年、これも女性として初のアカデミー会員に選ばれる。ノーベル賞受賞後の作品は一般に高い評価を受けていないが、受賞以前の業績のみでも大作家の名に値する。郷里の風物と、民衆への愛情をたたえ、超自然的現象を描いて空想の世界へ読者を誘い、宗教的情緒のなかに人間の性は善と実感させる心温まる文学といえる。日本では大正期以来『ニルスのふしぎな旅』、森鴎外(おうがい)訳『牧師』(『イェスタ・ベルリング物語』の第1章。1925)のほか、『地主の家の物語』『沼の家の娘』などは日本の読者になじみ深い。29年作品集10巻が発行される。映画界初期の名作といわれる『霊魂の不滅』(1920)は彼女の作品『御者』(1912)が原作で、日本では『幻の馬車』の名で知られる。
[田中三千夫]
『山室静訳『幻の馬車』(新潮文庫)』▽『石丸静雄訳『沼の家の娘』(角川文庫)』▽『佐々木基一訳『地主の家の物語』(角川文庫)』