スモレット(読み)すもれっと(英語表記)Tobias George Smollett

日本大百科全書(ニッポニカ) 「スモレット」の意味・わかりやすい解説

スモレット
すもれっと
Tobias George Smollett
(1721―1771)

イギリスの小説家。スコットランド出身。S・リチャードソンやH・フィールディングらとともに18世紀中ごろに人気があった。彼の生涯については伝説的要素が多く、不確実なところがあるのは小説『ロデリック・ランダム』(1748)に自伝的要素を織り込んだためといわれる。グラスゴー大学を中退し海軍軍医助手となってカルタヘナ遠征従軍、のちロンドンで外科医を開業しながら『ロデリック・ランダム』を書いた。フランスのル・サージュの『ジル・ブラース物語』の英訳を出したり、前者続編ともいうべき悪党物語『ペリグリン・ピクル』(1751)などを書いて近代的写実小説の発展に寄与した。一方、ジャーナリストとしても活躍したが、健康を害して1763年フランス、イタリアに遊び、その旅行記を書いたりした。最高傑作は旅行記と書簡体とを混合した『ハンフリー・クリンカー』(1771)で、彼はこの小説をイタリアで完成し、故国におけるその成功を知らず異国で没した。日記形式の旅行小説として異色のものである。彼のユーモアはこの最後の作品に花を開きかけたが完成せずに終わった。不道徳な素材のため、死後しばらくは不評であったが、ピカレスク悪漢)小説作家としてその写実性を買われ、19世紀初期に名をなしたディケンズに大きな影響を与えている。

[櫻庭信之]

『村上至孝著『笑いの文学 スターンとスモレット』(1955・研究社出版)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「スモレット」の意味・わかりやすい解説

スモレット
Smollett, Tobias George

[生]1721.3.19. ダンバートンシャー,ダルクハーン
[没]1771.9.17. リボルノ
イギリスの小説家。グラスゴー大学で医学を学び,海軍軍医を経てロンドンで開業,かたわら小説を書く。主作品に,『ロデリック・ランダム』 The Adventures of Roderick Random (1748) ,『ペリグリン・ピクルの冒険』 The Adventures of Peregrine Pickle (51) ,『ハンフリー・クリンカーの遠征』 The Expedition of Humphry Clinker (71) などがあり,これらはいわゆる悪者小説に属するものである。そのほか,『ドン・キホーテ』の翻訳 (55) ,『イギリス全史』A Complete History of England (57~58) などがある。イタリアで客死した。

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