日本大百科全書(ニッポニカ) 「ジル・ブラース物語」の意味・わかりやすい解説
ジル・ブラース物語
じるぶらーすものがたり
Histoire de Gil Blas de Santillane
フランスの小説家ルサージュの長編小説。全4巻。1715~35年刊。スペインの片田舎(かたいなか)に生まれた主人公のジル・ブラースは、17歳のとき故郷を出て、勉学のためサラマンカ大学に向かうが、その途上で実にさまざまなできごとに出くわし、運命のいたずらにもてあそばれることになる。フェリペ3世の宰相レルム公の秘書官になったかと思うと、公の失脚とともに彼も投獄の憂き目にあう。結婚して静かに余生を送ろうとすると、これもつかのま、今度はオリバレス公の寵臣(ちょうしん)となり、公とともに彼も出世と失墜とを繰り返す。このような経過をたどりながら、小説は、主人公が当初の世間的栄達という野心を捨て、人間的に成長していく過程を描いている。この意味で、スペインのピカレスク小説(悪者小説)に範を仰いでいることは明らかで、作中に配されるおびただしい挿話も、両者の深いつながりを物語っている。
[市川慎一]
『杉捷夫訳『ジル・ブラース物語』全4冊(岩波文庫)』