改訂新版 世界大百科事典 「スールダース」の意味・わかりやすい解説
スールダース
Sūrdās
16世紀中ごろの北インドで,クリシュナ信仰を主題とする甘美な賛歌を詠唱したビシュヌ派の盲目の詩人。その生涯,作品などについては不明な点が多いが,宗派内で編まれた信徒列伝の類によると,1478年にデリー近郊のバラモンの家に生まれ,青年期にバッラバ師から《バーガバタ・プラーナ》の講釈を聞いてクリシュナ信仰の道にはいり,ブリンダーバン近くのゴークルにバッラバ師が開いたシュリーナート寺院の賛歌詠唱者として迎えられて多数の情感豊かな賛歌を残し,1584年に寺院近くの湖のほとりで没したという。
彼の作とされる膨大な抒情的短詩は《スール・サーガルSūr Sāgar》に収められているが,その大多数はシュリーナート寺院で詠唱する賛歌としてつくられたものである。ビシュヌ神がクリシュナに化身して,無邪気な幼児の姿で戯れるさまを母ヤショーダーの目から写した慈愛あふれる詩,青年になったクリシュナを後に妃となったラーダーと周囲の牧女たちが恋い慕うさまを描いた恋愛詩は,今日まで愛唱されてきており,バクティの平易にして視覚的な表現に成功している点で,後代の思想と文学に大きな影響を及ぼした。また,マトゥラー付近の一方言にすぎなかったブラジュは,スールダースの賛歌が広まるにつれて詩語ないしは文語としての地位を得て,ブラジュ・バーシャーBraj Bhāṣā(ブラジュ地方の言語)と称されるようになった。
執筆者:坂田 貞二
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