改訂新版 世界大百科事典 「バッラバ」の意味・わかりやすい解説
バッラバ
Vallabha
生没年:1473-1531
南インドのベーダーンタ学派の哲学者。アーンドラ・プラデーシュ州のバラモン階級出身。ワーラーナシーに住んでいた父が,イスラム教徒が侵入して来ると聞いて逃げる途中,その近くのパンパラーニヤで月満たずに生まれたと伝えられる。8歳のとき,父から入門式を受け,その後ビシュヌ・チッタの下で学んだ。のち結婚し,1518年に息子ビッタラナータViṭṭhalanāthaが生まれ,やがて世を捨てて遊行者となり,31年に没した。84点の著作を残したといわれるが,最も重要な著作は《ブラフマ・スートラ》に対する注釈《アヌ・バーシャAṇu-bhāṣya》,《バーガバタ・プラーナ》に対する注釈《スボーディニーSubodhinī》,独立作品《タットバールタディーパ・ニバンダTattvārthadīpanibandha》およびそれに対する自注とである。彼はベーダーンタ学派の哲学に新しい解釈を与えて,ビシュヌ派系の一派バッラバーチャーリヤ派を創始した。最高の実在はブラフマンすなわちクリシュナ神であり,ブラフマンはあたかも蛇がとぐろを巻くように自らの意志のままに本質的変化はなく,遊戯のために,有・知・歓喜のどれが優勢になるかによって,ブラフマン,個我あるいは現象世界として顕現することができる。原因であるブラフマンも結果である個我・現象世界も実在し,ともに純粋清浄であって同一であるとして,純粋不二一元論(シュッダードバイタŚuddhādvaita)を主張した。これによって現実世界を肯定し,ヒンドゥー教を世俗化し,近代的思惟の萌芽を示している。
執筆者:前田 専学
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報