日本大百科全書(ニッポニカ) 「タマオシコガネ」の意味・わかりやすい解説
タマオシコガネ
たまおしこがね / 球押金亀子
scarab
昆虫綱甲虫目コガネムシ科ダイコクコガネ亜科の昆虫の一群。おもにヨーロッパ、アジア、アフリカに分布するが、日本には産しない。体長5~40ミリメートルぐらいまであり、幅広い卵形の平たい甲虫で、黒色のことが多いが、金属色に光るものもあり、背面に凸凹のあるものなどもあり、小形で脚(あし)の長いアシナガタマオシコガネ属Sisyphusの仲間もある。おもに新しい糞(ふん)に集まり、扇形の平たい頭と前脚で糞塊を球状に丸め、後ろ向きに後ろ脚で転がし、地面に穴を掘って運び入れる。糞は数個に分けて洋ナシ形の糞球につくられ、頂点の内側に卵が産み込まれる。この作業は普通、一対の虫がやるが、雌だけのこともある。幼虫は球の内部を食べて育ち、蛹(さなぎ)になり、成虫となって外界へ出てくる。
有名なファーブルの『昆虫記』に出てくる聖タマオシコガネ(ひじりたまおしこがね)Scarabaeus sacer(スカラベ・サクレScarabée sacré)は、よく知られた代表的な種で、中国にいるオオタマオシコガネS. baboriと近縁である。この類の転がす糞球を古代のエジプト人は回転する世界の像と考え、この虫を創造の神ケペリの化身と考えてケプレルとよび、不滅の魂、太陽の神性、自然の創造力の象徴として神聖視した。そしてこの虫をかたどった護符をつくり、また印章にも用い、彫刻としても残している。旧北区に分布するGymnopleurus mopsusをタマオシコガネとよぶことがある。
[中根猛彦]