翻訳|scarab
タマオシコガネ,フンコロガシとも呼ばれる。甲虫目コガネムシ科ダイコクコガネ亜科(タマオシコガネ亜科)に属し,獣糞を球状に丸めて転がして運搬するグループを指す。主としてスカラバエウスScarabaeusおよびギムノプレウルスGymnopleurusの両属に含まれる種類で,地中海沿岸地方,アフリカ,インド,中国および朝鮮半島などに分布するが,日本にはいない。頭部や脚は,糞を丸めたり,転がしたりするのにつごうのよい形態となっている。糞球は後脚を巧みに使い,単独,または雌雄で適当な場所まで転がす。地面に穴を掘って運び込み食べる。秋に深さ20~30cmの穴を掘り,直径5cmほどの上質の糞球をつくり,卵を1個産みつける。孵化(ふか)した幼虫は糞球の中でこれを食べて育つ。地中海沿岸地方に生息するヒジリタマオシコガネS.sacerは,代表種として知られる。学名は古代エジプト人がこの虫を聖なる虫としてあがめたことに由来する。英名もsacred beetle(神聖甲虫)。また,その動作からdung-pusherとも呼ばれる。
執筆者:林 長閑 ヒジリタマオシコガネは,ファーブルの《昆虫記》によって有名である。ファーブルは40年以上の歳月をかけてこの虫を調べ,その経過は《昆虫記》の,主として第1巻と第5巻に詳しく述べられている。ローヌ川をはさんでアビニョンの対岸にあるレザングルの丘に,この虫が多産することは,ファーブル自身がまとめ,1870年にアビニョンのカルベ博物館から出版された《アビニョンの動物誌》に書かれているが,今ではレザングルには羊,ロバなどは飼われておらず,したがってクソムシの姿も見ることはできない。ところで最近の研究によると,レザングルに産し,ファーブルが研究したものは,真のヒジリタマオシコガネではなく,同属ではるかに小型の近似種S.typhonであるという。ファーブルが分類学に反感をもっていたことによる誤りなのであるが,幸いにして両種の間にそれほど大きな習性上の差異はない,ということである。
執筆者:奥本 大三郎
スカラベは古代エジプト語ではケペレルkhepererと呼ばれたが,その生態によって,日輪に見たてられた糞球から自生すると考えられた。また〈生成〉〈創造〉〈再生〉を意味する語のケペルkheperと音が類似しているため,この虫の形が〈みずから生まれ出るもの〉〈天に昇る若い太陽〉とされたケペリKheperi神をも表すようになり,スカラベは創造と復活のシンボルとして神聖視された。そしてスカラベの意匠は古代エジプトでは印章,護符,装身具などに用いられた。それらは凍石(滑石の一種),石灰石,ファイアンスなどでつくられ,上面には羽を納めた状態のスカラベが彫られている。大きさは1cmくらいから10cm以上のものもあり,縦に小さな穴が開けられ,指輪型の印章ないしはペンダントとして用いられた。下面の平らな部分の彫刻はその目的によって異なった。印章または護符として用いられたものでは,所有者の名まえ,称号,渦巻や病気予防のための文様,神名,神像などが彫られた。王名も多く彫られ,とくにトトメス3世の名は後世まで人気があったようで,非常に多くの例を見ることができる。歴史的事実を彫り込んだものもあり,アメンヘテプ3世のライオン狩りや野牛狩り,王妃キルギパのスカラベ,エジプト帝国の南限北限表示のスカラベなどは有名である。また,〈ハート・スカラベ〉の名で知られるものは,大型でハヤブサの翼を広げたものをつけ,葬祭用の護符としてミイラの心臓の上に置かれ,〈死者の書〉30章の一文が彫られたものもある。
執筆者:中山 伸一
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甲虫類に属する昆虫の一群で、タマオシコガネ、フンコロガシなどとよばれる。獣糞(じゅうふん)を球状にして転がし、餌(え)にしたり、産卵に用いる。古代エジプトでは、その生態に象徴的意義をみ、スカラベの姿神ケプリ(ケペリ)が崇拝された。糞球を運ぶようすを、太陽が天空を東から西に運ばれる姿になぞらえ、ケプリ神は太陽神アトゥムと同一視された。ケプリとは「自ら生まれた者」の意。スカラベは「再生」「復活」「創造」のシンボルとされ、古代エジプトではその意匠は彫刻、印章、護符、装身具などに用いられた。彫刻ではカルナック神殿の像、大英博物館蔵の巨像が有名。護符にはラピスラズリ、トルコ石、黒曜石、ファイアンスなどが用いられ、裏面に所有者名や神像などを彫り、身につけたり、ミイラの包帯に巻き込んだ。やや大形で、裏に「死者の書」を記した「心臓スカラベ」は、ミイラの胸の上に置かれた。
[吉村作治]
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…大プリニウスは《博物誌》に2種のカブトムシを記載し,角をもつ種は護符として子どもが首に下げ,エジプトにすむ別種は小さな肥やしの玉をつくってそこに卵を産み,それを転がすと述べている。大プリニウスが説明した2種のうち後者は,正しくはカブトムシではなくスカラベのことで,エジプトの太陽神ラーの復活を象徴する。玉を転がすその習性が,転がるようにして天を通過する太陽に擬せられたからである。…
…ファーブルの《昆虫記》ではハナムグリ類,タマオシコガネ類の観察が詳しい。古代エジプト人はタマオシコガネ(スカラベ)を太陽神ケペリの化身としてあがめた。中国ではコガネムシ類(食葉群,食糞群)の幼虫を〈蠐螬(せいそう)〉と呼ぶ。…
… アリストファネスの《蛙(かえる)》その他のギリシア喜劇に排泄に関する弄言(ろうげん)が多いのは,この不浄観を利用して笑いを誘う意図からであるが,とくに《平和》(前421上演)ではくそ食い黄金虫にくそだんごを与えて巨大にしたトリュガイオスが,神馬ペガソスを操るベロレフォンよろしくこれに乗って,天上にあるゼウスの館(やかた)にたどり着くという筋書が,性の話題とないまぜになっている。なお,くそ食い黄金虫,すなわちスカラベはフンコロガシ,タマオシコガネとも称される甲虫の1種で,ファーブルの《昆虫記》での記述,また古代エジプトでは聖なる虫として崇拝されたことで有名である。糞や排便行為を笑いに盛りこんだのはほかにも少なくなく,中世ドイツ民話ティル・オイレンシュピーゲルにも散見され,ラブレーの《ガルガンチュアとパンタグリュエルの物語》の《第一之書ガルガンチュア》第13章は排便後のしりを何で拭くかの長々しい話で埋まっている。…
…円筒印章は沈み彫(インタリオ)で粘土板にころがして使うが,紐でつるされて携帯され,それが着用宝飾石の起源ともいわれている。エジプトでも甲虫形に彫刻された宝石,すなわちスカラベが天地創造の神とされ,再生・長寿の象徴として神聖視され,護符として着用された。全メソポタミアを統一したバビロニア王朝時代には,円筒印章の流行は続いたが,円錐形や半球形の印章石の平面に,紋章的な図柄を彫り込んで押印や封印用として用いるスタンプ・シールstamp sealが普及し始めた。…
…指輪の歴史が始まるのは古代エジプトあたりからで,金のほか貝殻や軟らかい石や紫水晶のものがつくられ,大衆用には陶器のものがあった。エジプトでは指輪にスカラベを彫ったもの,あるいは指輪の飾台(そこに認印のしるしが彫られた)をスカラベ形にしたものが幸運のしるしとして用いられた。スカラベはその卵を動物の糞に包んで玉にし,その中で孵化(ふか)させるので,それが死と復活と不死を象徴すると考えられていた。…
※「スカラベ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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