改訂新版 世界大百科事典 「たま」の意味・わかりやすい解説
たま
邦楽の用語。主として長唄の三味線や囃子に用いられることば。原作にない旋律を即興的に演奏することや,その部分のことを指す。語源についてははっきりしていないが,江戸時代の末期には用いられていたという。一般には立三味線(たてじやみせん)(首席の三味線奏者)が1人で〈たま〉の部分を弾き,他の三味線奏者たちは〈地〉の旋律(原作の旋律)を奏するが,時として三味線奏者たちが1人ずつ交替で,〈たま〉を受け持つこともある。〈たま〉の入る部分は,多くの場合,にぎやかでリズミカルなところで,〈たま〉を奏する三味線方は,高音域の音を用いて〈地〉の旋律と区別させる。おもに三味線(囃子の入るときは囃子も含め)の技量を示すための演奏法である。〈たま〉の用いられる曲例としては,《娘道成寺(むすめどうじようじ)》《吉原雀(よしわらすずめ)》《二人椀久(ににんわんきゆう)》《蜘蛛拍子舞(くものひようしまい)》などがあげられる。
執筆者:加納 マリ
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報