日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
ダイバーシティ・マネジメント
だいばーしてぃまねじめんと
diversity management
性別、年齢、国籍、人種・民族、宗教、障害の有無、性的指向といったあらゆる属性について、ダイバーシティ(多様性)を理解・評価して人材を活用する経営手法。ダイバーシティが競争優位の源泉であると考える経営用語の一つである。ダイバーシティ&インクルージョン(多様性の受容)ともいわれ、「多様性の経営」と訳されることもある。異なる能力、経歴、経験、発想、価値観、ライフスタイルなどをもつ人材を生かすことで、均質的な組織ではむずかしかった、(1)技術革新(イノベーション)の創出、(2)多種多様な消費者の需要に対応したモノやサービスの提供、(3)働きやすい職場づくりやモチベーションの向上、組織の活性化、につながるとされている。ダイバーシティ・マネジメントを採用すると、経営リスクに機動的に対処できるほか、内外投資家からも投資先として信頼される、とされている。
アメリカで1964年に公民権法が施行され、差別的人事慣行の撤廃や平等な機会提供を求める動きが広がり、注目されるようになった。当初、ダイバーシティ・マネジメントは、差別をうけた従業員などの損害賠償に備える経営という色彩が強かった。1980年代以降、グローバル化を進めた多国籍企業がアジアやアフリカのローカル市場に精通した人材登用の必要性に迫られ、広く普及するようになった。1987年、アメリカ労働省が報告書「Workforce 2000」をまとめ、白人男性の労働力人口の急減で、2000年までの新規労働力のほとんどが白人女性、マイノリティ(少数人種)、移民になると指摘し、ダイバーシティ・マネジメントを採用する企業が増加した。
少子高齢化の進む日本では、生産年齢人口の減少を補い、女性、高齢者、障害者などの多様な人材を活用する目的で関心が集まった。2000年(平成12)、日経連(現、日本経団連)は「ダイバーシティ・ワーク・ルール研究会」を立ち上げ、経済産業省は2017年、企業の国際競争力を高めるための「ダイバーシティ2.0 行動ガイドライン」をまとめた。
[矢野 武 2022年3月23日]