改訂新版 世界大百科事典 「ダウランド」の意味・わかりやすい解説
ダウランド
John Dowland
生没年:1563-1626
イギリスの作曲家。生い立ちは不詳。フランス大使に仕え,1580-82年には大陸で生活していた。帰国後急速にリュート奏者としての名声を高め,88年にはオックスフォード大学から音楽学士の学位を得た。94年にイギリス宮廷への仕官に失敗した後,再び大陸に渡り各国を歴訪し,1598-1606年にはデンマーク国王付きリュート奏者として活躍した。06年にロンドンに戻り,12年に念願のイギリス国王付きリュート奏者に任命された。得意なリュートのために約85曲の独奏曲を残したが,パバーヌ,ガリアードなどの舞曲のほか,対位法風なファンタジアに名曲が多い。1597-1612年に4巻から成るリュート歌曲集を出版した。その作品の大部分は重唱(合唱)曲としても歌える。合奏曲も30曲ほど残したが,リュート曲や歌曲の編曲が多い。代表作《涙のパバーヌ》も,実は歌曲《流れよ,わが涙》の器楽版にほかならない。この作品によって代表されるような憂愁の雰囲気に満ちあふれた抒情性はこの作曲家独自のものであり,なめらかで多少通俗的な旋律の流れや,当時のフランスやイタリアの音楽様式をも取り入れた優雅な作風とともに,個性にあふれた音楽様式を形成している。
執筆者:金沢 正剛
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報