舞踏場。おもに日本とアメリカにおける用語で、イギリスではダンシングルームdancing roomまたはボールルームballroomといい、普通、社交ダンスを目的として営業する娯楽場をいう。ホテルの一部に設けられたものも多い。中世以降のヨーロッパでは公・私邸あるいはホテルなどにホールを設けて社交の場として普及したが、社交ダンスだけを目的とする営業的施設はなく、ナイトクラブなどで客同士がダンスをする風習であった。
日本で社交ダンスが行われたのは明治時代の鹿鳴館(ろくめいかん)(1883完成)における舞踏会が始まりで、1918年(大正7)、神奈川県横浜市鶴見(つるみ)の花月園食堂に専属のバンドを置いたダンスサロンを設けたのが営業的なものの最初とされる。ついで東京にレコード演奏によるダンスクラブができ、大阪にもバンドを置いたダンスホールが続々誕生して、専属の女性ダンサーが客の相手をつとめた。こうしたダンスホールは第二次世界大戦前には全国主要都市に50を数えた。戦時中は閉鎖されたが、戦後アメリカ進駐軍専用のダンスホールが開設されたのに始まり、ふたたび各地にみられるようになった。その後キャバレーやナイトクラブなどがこれにかわり、ロックン・ロールのレコードをかけて踊るダンスホールが流行し、ディスコテークdiscothèqueとよばれて若い男女に利用された。
1980年代以降の日本には、法律(風俗営業等取締法)で定められているダンスホールはほとんど存在しない。本来の(法定の)ダンスホールとは、「設備を設けて客にダンスをさせる営業」をする場とされており、酒類などを販売したり、女性が接待してはならないのだが、多くはそのようなキャバレーやナイトクラブと同じ営業形態の許可をとって営業しているものである。ただし、以前のようなチーク・ダンス全盛の形態は大きく変化し、汗をかき、大きく踊るスポーツ・ダンスが主流となり、健康的なダンスに変革している。
[佐藤農人・篠田 学]
『永井良和著『社交ダンスと日本人』(1991・晶文社)』
一般にはダンスをするための広い部屋をいうが,大正時代に登場した日本のダンスホールは,バンド(またはレコード)演奏があり,客の相手をするダンサーがいて,入場料を取って社交ダンスを踊らせる遊戯場であった。社交ダンスそのものは,すでに明治初年の東京浜離宮の延遼館をはじめ,1883年の東京京橋の明治会堂における民間最初の舞踏会や,同年に落成した鹿鳴館などで試みられたが,それらはいずれも政治家や高級官僚など特権階級の社交場であった。
それに対して,社交ダンスが大衆娯楽として普及するようになったのは,ずっとおくれて1918年に,横浜鶴見の花月園が日本最初のダンスホール営業を開始してからである。関東大震災後,客が購入した切符とひきかえにダンサーが踊りの相手をするシステムが定着し,いっそうの人気を集めるようになったが,25年には風紀上の問題から,学生の入場や午後10時以後の営業が禁止されるようになった。それでも当時は,公然化された男女の数少ない交際場として人気を呼び,昭和に入ると,東京京橋に新たに日米舞踏場が開業したのをきっかけに,国華,ユニオン,新橋,帝都,フロリダなどの開業が相次ぎ,ダンスホールの最盛期を迎えた。だが,戦時色が濃くなった40年閉鎖命令が下り,東京市内の8ホールは廃業に追いこまれた。
第2次世界大戦後は1946年からダンスホールの復活が相次いだが,昭和30年代に入ると非営業のダンスパーティが盛んになるとともに,キャバレーでもダンスが踊れたことから徐々に衰え,昭和40年代には,いわゆるディスコテーク・タイプのダンスホールにその席を譲り渡すようになった。
→ディスコ
執筆者:高田 公理
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…1918年,横浜市鶴見の花月園に欧米流の社交ダンス場が誕生したが,職業ダンサーをおかない女性同伴で通うものだった。関東大震災(1923)後,大阪に専属のダンサーをおいたダンスホールが続々と生まれ,東京にも波及した。ダンスホールでは専属のジャズ・バンドとタンゴ・バンドが生演奏を行っていた。…
…ジャズ発生以前のことで,歌劇の序曲やカドリール,ケークウォークといった曲が演奏されていたらしい。このバンドはアメリカでサイレント映画の伴奏法を学び,19年に船を下りて映画館バンドに,21年には横浜の鶴見花月園ダンスホール専属バンドとなった。そのころダンス音楽の主流はフォックス・トロットとなる。…
※「ダンスホール」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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