チミノ(読み)ちみの(その他表記)Michael Cimino

日本大百科全書(ニッポニカ) 「チミノ」の意味・わかりやすい解説

チミノ
ちみの
Michael Cimino
(1943―2016)

アメリカの映画監督。ニューヨークに生まれる。生年には1938年説もある。音楽出版社を営む家庭に育ち、エール大学で絵画、建築、美術史を学んで1963年に修士号を取得。半年間の兵役に服した後、ニューヨークでドキュメンタリー映画の編集見習いをしながら演技バレエを学ぶ。その後1960年代後半にはゼネラル・モーターズなどのコマーシャル製作で成功、多くの賞を獲得した。1971年にハリウッドへ赴き、『サイレント・ランニング』(1972。監督ダグラス・トランブルDouglas Trumbull、1942―2022)で脚本を手がけた。ジョン・ミリアスJohn Milius(1944― )と共同で脚本を執筆した『ダーティハリー2』(1973)をきっかけにクリント・イーストウッドから認められ、イーストウッド主演の『サンダーボルト』(1974)で監督デビューを果たす。イーストウッドに偽牧師の銀行強盗を演じさせたこのアクション映画でチミノは脚本も担当し、未熟な若者を教え導く年長者という以降のイーストウッド像を決定づけた。

 次作『ディア・ハンター』(1978)は、ロシア系のベトナム帰還兵が心に負った深い傷を出征前の青春の追憶との対比のもとに描いた問題作で、第二次世界大戦後に製作された『我等(われら)の生涯の最良の年』(1946。監督ウィリアム・ワイラー)のベトナム版とでもいうべきものであった。アカデミー賞では同様の主題を扱った『帰郷』(1978。監督ハル・アシュビーHal Ashby、1929―1988)を抑えて作品賞、監督賞など5部門で受賞、反戦映画傑作と称賛された。だがその一方で、タカ派の名優ジョン・ウェインも絶賛したほど両義的なところがあり、ロシアン・ルーレットのシーンにみられるように、ベトナム兵の残虐さをことさらに強調した描写には批判の声も上がった。また同作はイギリスの音楽企業EMIが出資した初のアメリカ映画であり、スタンリー・マイヤーズStanley Myers(1933―1993)による主題曲も話題を集めた。

 『ディア・ハンター』冒頭の、物語の要請を超えてまで延々と続く結婚式のシーンからすでに明らかであったように、チミノにおける叙事詩的な壮大さへの嗜好(しこう)は、しばしば「商品」としての映画の枠を超えるものであったが、続く超大作『天国の門』(1980)において、チミノの野心は由緒正しいユナイテッド・アーティスツ社を破産に追い込んでしまう。大量の東欧系移民が粛清された1892年のジョンソン郡戦争(ワイオミング州のジョンソン郡において、土地の独占を図る牧畜業者たちが傭兵(ようへい)を使って東欧系の入植者たちを虐殺させた事件)を描くにあたり、当初1200万ドルを予定していた製作費は最終的に3800万ドルにまで膨れ上がった。219分あった最初の版は観客の不評を受けて急遽149分にまで短縮されたが、そのかいもなく、映画は興行史に残る惨敗を喫した。これは、チミノの暴走を許した1970年代のアメリカ映画における監督中心主義的な映画製作の終焉(しゅうえん)も意味していた。

 その後もチミノは困難な条件の下、『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』(1985)、『シシリアン』(1987)、『逃亡者』(1990)、『心の指紋』(1996)と問題作を世に放ち、アメリカ合衆国内の人種と民族の問題を問い続けるが、いずれもヒットには結び付かなかった。

[藤井仁子]

資料 監督作品一覧

サンダーボルト Thunderbolt and Lightfoot(1974)
ディア・ハンター The Deer Hunter(1978)
天国の門 Heaven's Gate(1980)
イヤー・オブ・ザ・ドラゴン Year of the Dragon(1985)
シシリアン The Sicilian(1987)
逃亡者 Desperate Hours(1990)
心の指紋 The Sunchaser(1996)
それぞれのシネマ~「翻訳不要」 Chacun son cinéma - No Translation Needed(2007)

『スティーヴン・バック著、浅尾敦則訳『ファイナル・カット――「天国の門」製作の夢と悲惨』(1993・筑摩書房)』『Robin WoodHollywood from Vietnam to Reagan...and Beyond(2003, Columbia University Press, New York)』

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