日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
ツィーグラー‐ナッタ触媒
つぃーぐらーなったしょくばい
Ziegler-Natta catalyst
重合反応に用いられる触媒。塩化チタンとトリアルキルアルミニウムとからなる系のものが代表的である。
歴史的にはドイツのK・ツィーグラーらが1953年に、四塩化チタンTiCl4とトリエチルアルミニウムAl(C2H5)3を無水ヘキサン中で混合して生じる黒色の沈殿物を、触媒(このTiCl4-Al(C2H5)3系触媒をツィーグラー触媒という)として用いると、常温・常圧でエチレンからポリエチレンを生成することをみいだしたのが最初である。これが低圧法ポリエチレンといわれるもので、従来の高圧法(2000気圧、200℃)で得られるポリエチレンと異なり、長鎖状で枝分れがほとんどないため結晶性がよく、融点の高い高密度ポリマー(重合体)である。
一方、1955年にイタリアのG・ナッタらはツィーグラー触媒を改良して、三塩化チタンTiCl3とトリエチルアルミニウムから得られる同様な触媒(このTiCl3-Al(C2H5)3系触媒をナッタ触媒という)を用いて加熱すると、プロピレンが重合し、高融点のポリプロピレンが得られることをみいだした。しかも、このポリマー(重合体)はX線回折によって立体規則性ポリマー(アイソタクチック構造)であることを明らかにした。しかし、ツィーグラー触媒もナッタ触媒も本質的な差異はない。現在では、上述の触媒以外に、周期表で第Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ族の各種金属アルキル化合物と、第Ⅳ~Ⅶ族の遷移金属化合物の組合せからなる多数の触媒系が立体規則性重合の触媒として有効であることが認められ、これら一連の触媒系を総称してツィーグラー‐ナッタ触媒とよんでいる。一般にこれらの触媒は空気中の酸素や水分によって酸化または分解されやすく、触媒としての働きをなくすので、取扱いは、高純度窒素またはアルゴンなどの不活性ガス雰囲気下で行われる。
ツィーグラーとナッタは、この業績「高分子物質の化学と技術における発見」が評価され、1963年にノーベル化学賞を受けた。
[蜷川 彰]
『触媒学会編『触媒各論 触媒講座第10巻/工業触媒反応編4』(1986・講談社)』