ツボワムシ
つぼわむし / 壺輪虫
袋形(たいけい)動物門輪毛虫綱の1目を構成する顕微鏡視的小動物の総称。狭義ではツボワムシ属Brachionusまたはそのなかの1種。雌雄異型。雌の外形はおおむね壺(つぼ)状か円盤状。被甲前縁、ときには後端にも刺状突起を備えるが、後頭部と後端両側部の突起には、水温、食性、成長段階などの差により著しい変化がみられる。一般体形、被甲前縁とくに前胸部および脚(あし)開口部とその周辺の形状などに基づいて、34種といくつかの変種や型に分類される。淡水域に生息するが混合海水や海水中にもすみ、水草の多い沿岸域に多産する。雄は雌の3分の1から5分の1で円柱状。消化器官などを欠く。大きな脚と陰茎をもち遊泳はすばやい。雄が年1、2回出現するので、周期的な処女生殖(ヘテロゴニー)を営む。魚貝類の種苗養成の餌(えさ)として各国で人工的に量産されている種もある。
和名ツボワムシB. calyciflorusは、袋状で後頭刺が4本、平均体長600マイクロメートル、幅300マイクロメートルで3変種5型が知られる。世界各地の比較的浅い池沼に多く、富栄養化した水域やβ(ベータ)段階にある汚水の指標とされている。雄は体長80マイクロメートル、幅40マイクロメートル。春と秋に出現するが寿命は数時間程度。受精卵は厚い褐色の外皮を備えるため耐久卵とよばれ、それからは幹母虫(かんぼちゅう)が孵化(ふか)し、処女生殖雌虫(♀♀)を産む。この型の雌(♀♀)は体長800マイクロメートルまでの大きさで、寿命は約10日間である。
[鈴木 實]
出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例
ツボワムシ (壺輪虫)
Brachionus calyciflorus
真輪虫綱ツボワムシ科の輪形動物。温帯域の池沼に広く分布し,プランクトン生活をする。被甲長180~570μmの卵円形で,やや軟らかい。表面は平滑かあるいは軽い点刻がある。背面の前縁には4個のとげが並んでいて,そのうち中央の2個が両側方のものよりも長い。腹面前縁には凹凸があってV字状の切れ込みがある。体の後端から突出する肢の先端に小さいつめをもっている。体の大きさや形態には非常に幅広い変異が見られる。近縁種のシオミズツボワムシB.plicatilisは2亜種よりなり,被甲の背面前縁に6本のとげがある。汽水や塩水中に広く分布するが,これを人工的に培養して養殖中の稚エビや稚魚などの餌に用いる。
執筆者:今島 実
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
世界大百科事典(旧版)内のツボワムシの言及
【ワムシ(輪虫)】より
…食物には植物性プランクトン,ミジンコ,繊毛虫類などがあり,種類によって食べるものがだいたいきまっている。 池や沼では[ツボワムシ]Brachionus calyciflorus,ツキガタワムシLecane luna,[ミズワムシ]Epiphanes senta,カメノコウワムシKeratella cochlearisなどがふつうに見られる。ワムシは稚魚や稚エビなどの餌として好適で,そのため各養殖場ではシオミズツボワムシB.plicatilis(イラスト)を培養してこれらに与えている。…
【ワムシ(輪虫)】より
…食物には植物性プランクトン,ミジンコ,繊毛虫類などがあり,種類によって食べるものがだいたいきまっている。 池や沼では[ツボワムシ]Brachionus calyciflorus,ツキガタワムシLecane luna,[ミズワムシ]Epiphanes senta,カメノコウワムシKeratella cochlearisなどがふつうに見られる。ワムシは稚魚や稚エビなどの餌として好適で,そのため各養殖場ではシオミズツボワムシB.plicatilis(イラスト)を培養してこれらに与えている。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」