改訂新版 世界大百科事典 「ツマキチョウ」の意味・わかりやすい解説
ツマキチョウ
Anthocharis scolymus
鱗翅目シロチョウ科の昆虫。開張は小型の雄で4cm余,大型の雌で5.5cm。東アジア特産。日本全国に産するが南西諸島には分布しない。年1回4~5月に発生するが,高地や寒冷地では6月以降にも見られる。前翅先端が横に張り出してとがるのが著しい特徴である。雌は白地に黒紋のみであるが,雄の前翅にはそのほかに橙黄色の部分があり,和名の由来となっている。平地の河川の堤防付近や低山帯の道路,渓谷沿いにふつうにみられる。皆伐直後の山の斜面にも数年間は多く発生する。モンシロチョウと同じく日当りのよいところを好んで飛ぶが,大きさが小さいことと,やや直線的に緩やかに飛ぶので一見して区別しうる。飛翔(ひしよう)中は雄の黄色紋は目だたない。年1回の発生で,さなぎで約10ヵ月を過ごす。まれに2冬を過ごして羽化するものもある。幼虫はハタザオ類のさやをとくに好むが,イヌガラシ,ナズナ,タネツケバナなどもよく食べる。北アメリカにはよく似たA.mideaが分布する。
近似種のクモマツマキチョウA.cardaminesは開張4~4.5cmであるが,前翅端が前種と異なってとがらぬため,翅の面積は大きく見える。イギリスからユーラシア大陸に広く分布し,日本のものは遺存種と見られる。長野県を中心とした高山の渓谷やその下流沿いにのみ分布し,高山チョウとして扱われる。雄の前翅は先端から約半分が広く橙赤色を呈し,飛翔中も雌との区別が容易である。幼虫の食草は同じくハタザオ類であるが,平地で飼育すれば多くのアブラナ科植物を食べる。両種とも3齢くらいまでは卵やより小さい幼虫を共食いする。
執筆者:高倉 忠博
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報