日本大百科全書(ニッポニカ) 「ばね」の意味・わかりやすい解説
ばね
物体の弾性を利用した機械要素の一つ。スプリング、発条(はつじょう)ともいい、エネルギーを吸収、蓄積させ、緩衝用に利用したり、蓄積されたエネルギーを取り出して仕事をさせるのに利用するなど、きわめて広範囲に使用されている。
[中山秀太郎]
ばねの働き
(1)静的または準静的に使用するものとしては、ばね秤(ばかり)、ソファに使用されているばね、安全弁の弁ばねなどがある。また時計のぜんまい、ばね仕掛けの玩具(がんぐ)に使われているばねのように、蓄えた弾性エネルギーを徐々に取り出して動力として利用するものもある。(2)動的に使用するばねとしては、内燃機関の弁ばね、ガバナーのようにばねの力を利用するものがある。(3)振動防止に使用されるものとしては、鉄道車両、自動車の車輪と車体との間に入れてある担いばねのように振動を緩和するもの、あるいは鉄道車両の連結器、エレベーター用の緩衝装置のように衝撃エネルギーを吸収、緩和するのに使われるばねなどがその例である。この場合のばねを緩衝ばねまたは防振ばねとよぶこともある。ばねを振動や衝撃を緩和するのに使用する場合には適当な減衰装置を取り付けるのが普通である。
[中山秀太郎]
ばねの材料
機械的性質として弾性限度、疲れ限度、硬さなどが重要で、引張り強さ、伸び率などはあまり重要でない。とくに、ばねを動的外力の作用するところで使用する場合は、強度だけでなく、疲れ現象を考慮して材質、形状を選定しなければならない。材質については、適当な熱処理、ショットピーニングなどの加工によりある程度改善することができる。ばねの材料として多く使用される鋼も、特殊な熱処理を施すのが普通である。金属材料としてはほかにリン青銅、ニッケル合金などが使用される。金属材料を用いたばねには、つる巻きばね、板ばね、渦巻きばね、輪ばね、皿ばねなどがある。荷重の加わり方が引張り、圧縮、ねじり、曲げの場合、また使用箇所などに応じて適当な形のばねを使用する。つる巻きばねは、丸鋼、角鋼など棒状の金属材料を円筒形の螺旋(らせん)状に巻いたもので、荷重が引張りの場合でも圧縮の場合でも使用することができる。とくに圧縮荷重のもとで使用するときには、ばねを二重または三重にすることもある。板ばねは一枚で使用する場合もあるが、数枚重ねて使用することが多い。大きな外力が加わるところでは、台形または三角形状に重ね合わせた板ばねを使用する。自動車、鉄道車両などの振動緩和用に多く使用されている。渦巻きばねはぜんまいばねともいい、帯鋼を巻いてつくる。時計に使用されている動力用渦巻ばねはその例である。
ばねの材料としてはゴムや空気のような非金属材料も使用される。ゴムは、エンジン、車両など振動体の防振用として用いられている。防振ゴムといわれ、その形状、種類はきわめて多い。一般に物体は振動すると音を発生するが、防振ゴムは防音用にも用いられる。家庭用の電気冷蔵庫のコンプレッサーを防振ゴムで支持しているのは、コンプレッサーの振動をゴムで吸収し、騒音の発生を防ぐためである。ゴム製の小田原提灯(ちょうちん)状の容器(ベローズbellows)の中に空気を密閉した空気ばねは、乗り心地を重要視する観光バスなどの車体の支持や、鉄道車両の振動防止用としても利用されている。自動車や自転車のゴムのタイヤも空気ばねの一種である。
[中山秀太郎]