かつては繁栄していた生物が絶滅しかかったり,あるいは地理的隔離をうけたり形態的,生理的に特殊化したことで絶滅しやすい状態におかれている生物種。残存種あるいはレリックrelic,レリクトrelictともいう。種ばかりでなく,ファウナ(動物相)やフロラ(植物相),また個体群についても用いられることがある。ふつう沖縄本島のヤンバルクイナや西表(いりおもて)島のイリオモテヤマネコのように,島に孤立化している地理的に分布の狭いものが例にあげられているが,いろいろなカテゴリーのものが含まれている。すなわち,アメリカのバイソンのように,かつては個体数が豊富であったのに少数しか残存していないもの(数量的遺存種),メタセコイアのようにユーラシアの広い地域に分布していたものが,現在は中国四川省の限定された狭い地域にだけ生き残っているもの(地理的遺存種),シャミセンガイのように5億年もの間,ほとんど変化することなく例外的にゆっくりと進化したもの(系統的遺存種),ゾウのようにかつてはたくさんの類縁種があったのに,現在では2種しか存在せず類縁種の数が少なくなったもの(分類的遺存種)などである。これらのカテゴリーは互いに関連しあい,シーラカンスなどの場合はすべての意味での遺存種といえるが,ゾウのような場合は系統的遺存種とはいえないし,よく遺存種として扱われているオーストラリアの有袋類は,厳密にはそうはいえない面もある。また環境の変化にかかわらず,以前の環境条件を反映しているものを環境的あるいは生態的遺存種とよぶこともある。北ヨーロッパの湖にすむMysis relicta(節足動物アミ類)は,もともとは海水産だが,水域が海から切り離され,淡水化した水域に適応して生き残ったものとして知られている。また氷河時代の寒冷気候のもとでは広く分布していたが,その後の温暖化によって周極地域や高山地帯にのみ分布を縮小したものを気候的遺存種とか氷河遺存種とよぶことがある。高山植物や高山動物とされているものがそれにあたる。
→生きている化石
執筆者:亀井 節夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
過去、地球上で繁栄した生物で絶滅の道をたどっているものが、特別の環境内にわずかに生存しているものをいう。「生きている化石」ともいい、レリックrelic(またはレリクトrelict)すなわち残存生物のことをさす。アメリカの古生物学者G・G・シンプソンは、遺存種として残っている生物を次の五つの型に分類している。
(1)数量的レリック かつて数量的に個体数が多かったものが少数生き残っているもので、インドサイがその例にあたる。
(2)地理的レリック かつて地理的に広い範囲に分布していたものが、現在では限られた地域にだけ生存しているもので、イチョウ、メタセコイアなどがこれに属し、また氷河時代に広く分布していて今では高山にのみ認められる植物やナキウサギ、ライチョウ、ウスバキチョウなどもこの例に入る。
(3)系統的レリック 系統進化のうえで原始的な生物が、ほとんど進化しないまま生存している場合で、ゼニゴケやトクサなどの植物や、シャミセンガイ、シーラカンスなどがこの例に入る。
(4)分類的レリック かつては分類学上多くのグループが存在していたが、現在では少数の種類だけしか生存していないもので、ゾウがこの例にあたる。
(5)環境的レリック かつて特定の環境に適応して繁栄した生物が、その後の環境の変化に適応しつつ形質を保って生き残っているもので、ガラパゴス島のウミトカゲやリクトカゲ、バイカル湖のアザラシなどがその例にあたる。
ただし、遺存種には上記の分類の二つ以上の性質を示すものがあるため、簡単に分類することはできない。こうした遺存種は過去の生物を復元し、系統進化の過程や原因を知るために貴重な手掛りを与えてくれる。
[大森昌衛]
『井尻正二・真野勝友・堀田進著『「新」文明のなかの未開――レリックの世界』(1998・築地書館)』
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…地質時代に全盛期を迎え,現在はその系統の末裔が,基本的な性質をあまり変えないまま,細々と生きている動植物の通称。広義の遺存種(残存生物)に含まれるが,ふつうレリックまたはレリクトと称されるものは,氷河時代に寒冷種が南下して分布していたのに,後氷期となって大勢は北上したにもかかわらず高地などに残存し,隔離分布の形をとるようになったグループを指すので,生きている化石の典型ではない。生きている化石の典型とは,例えば中生代以後のように,かなり長い年代を存続しているグループのことであり,したがって体制としてもより原始的な構造を多くとどめているのが特徴といえる。…
※「遺存種」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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