日本大百科全書(ニッポニカ) 「テティス」の意味・わかりやすい解説
テティス
ててぃす
Thetis
ギリシア神話の海の女神。海神ネレウスの50人の娘たち(ネレイス)の1人。ゼウスとポセイドンが彼女に求婚したが、彼女から生まれる子はその父を凌駕(りょうが)するだろうとのテミス(またはプロメテウス)の預言から、結局彼女は人間の妻として与えられることになった。そしてケイロンの知恵により、ペレウスは彼女を妻にすることができた。海神の一族であるテティスは自由に姿を変えることができたが、ペレウスは逃れようとした彼女をつかまえて離さなかったのである。2人の結婚式にはほとんどの神々が出席したが、争いの女神エリスだけが招かれなかった。そのためこれを恨んだエリスは、黄金のリンゴを祝宴の満座の中に投じ、これが原因となってのちにトロヤ戦争が起こる。あるときテティスは、生まれた男の子を不死身にしようと夫に隠れて火中に子を投げ入れていたが、ペレウスに発見されると海底へ去っていった。男の子は、母の手に隠れた踵(かかと)の部分を除いてほとんど不死身となった。これが英雄アキレウスである。テティスは海へ去ったあとも、アキレウスのためにあらゆる努力を惜しまなかった。
[伊藤照夫]