改訂新版 世界大百科事典 の解説
データベースマネジメントシステム
data base management system
DBMSということもある。データベースを利用するとき,利用者の指示に従ってデータの蓄積,加工などを行うコンピューターのプログラムである。データベースを扱うものであれば名称はなんであれ,DBMSであるとみなせる。DBMSは1960年代半ばに出現した。当初はデータ構造がネットワーク型,階層型といろいろ試行されたが,最近はほとんどが関係型である。関係型をもっと強力にしたものとしてオブジェクト指向型のものが将来のものとして期待されている。DBMSは使用目的が異なるとその構造も異なるが,ここでは汎用型のものを前提として話を進める。
データベースは組織的に蓄積されるデータを前提としている。従って,一定の枠内に入るデータを同じ種類のデータとしてまとめて扱うことを基本とする。同じ種類のデータとしてまとめて考えられるデータは一つの型に属していると仮定され,個々のデータのことをその型のインスタンスという。データベースは,型をいくつか定義しそのおのおのの型に属するインスタンスを投入することによってできあがる。
DBMSは以下のような機能からなる。(1)データ定義 データの型ならびに型同士の関連についてデータ投入以前に定める機能。(2)データの格納 実際にデータをディスクなどの永続性のある(放っておいても内容がそのまま保持される)メディアに格納する機能。(3)データの加工 データベースに蓄積されているデータを更新,削除する機能。(4)データの検索 例えば〈東京に住む25歳から35歳までの職業を持った女性〉というような条件を指定してデータベースから条件を満足するデータを取り出す機能。条件の指定は複雑な検索条件を指定することができる。複数個の型に属するデータを関連させて取り出すことも可能である。(5)ユーザーインターフェース DBMSの直接的な機能ではないが,利用者がデータベース管理システムと接するときに利用者が自分の要求をわかりやすい方法で表現する機能。(6)メタデータベース 蓄積データの型に関する制御情報などを管理し,利用者に利用させる機能。通常,一種のデータベースとして提供される。
DBMSを可能にした実現技術には以下のようなものがある。これらはデータベースを扱う以上本質的なもので,技術進歩と独立に常に必要とされるものである。
(1)高速アクセス データベースは大量のデータを扱う。そのため任意に指定されたデータを高速にアクセス(読み取りあるいは書き出す)するための技術。たとえばデータの蓄積のときに同時に索引を作成し,検索のときにこの索引の助けを借りて高速にデータにアクセスする。あるいはハードウェアの助けを借りて索引なしでも高速アクセスを行う技術などがある。
(2)並行処理 データベースは非同期に複数の利用者がその蓄積データの内容を変更することを許す技術。よく使われる実現技術はトランザクションという概念を導入するものである。トランザクションは,意味のある作業の単位で,その実行は成功するか失敗するかのいずれかであって,中途半端なことはないようにDBMSが動作を制御する技術である。このためには処理の直列化serialization,トランザクションで行った処理をDBMSに確実なものとして確約commitさせ,途中で障害が発生したときにはトランザクション単位で回復する障害回復技術などを要する。処理の直列化を自動的に保証するスケジューリングのプロトコルとして2相施錠2 phase lock等の技術がある。
(3)障害回復 トランザクション単位の実行を保証するためには,トランザクションの実行の途中で生じた障害はもともとそのトランザクションがなかったものとしてデータベースの内容をトランザクション開始時の状態に戻すことなどを行う。そのためにはトランザクションの発生の履歴をログ(データベースの運転記録)ファイルに常時記録する必要がある。ログデータをファイルに書き出すときにはログ先書きwrite ahead logプロトコルを守るべきことが知られている。
(4)データベース管理システム間の同期 複数のデータベース管理システムが協調して一つの仕事を行っているときには,複数のデータベース管理システム同士,その他通信をつかさどっているシステム等の間で同期をとるための技術が必要となる。このために2相コミット2 phase commitの技術が確立している。
(5)問合せ最適化 データベースに対する問合せは,データが満足すべき条件を指定するから,本質的には論理式を内蔵する質問を処理する必要がある。論理式の計算は手順の立て方によってかかる時間が大幅に変わりうるので,それらの中でどのような手順を選ぶのがよいかを決定する技術がある。
執筆者:穂鷹 良介
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報