改訂新版 世界大百科事典 「トウヒレン」の意味・わかりやすい解説
トウヒレン
Saussurea
北半球に広く分布するキク科の1属で,約400種からなる。大部分の種は東アジアの山岳地帯に生育し,25種が日本にある。トウヒレンの〈飛廉〉はヒレアザミに用いられた日本の漢字名であるが,トウの由来はよくわかっていない。分類が困難なこともあって,〈ヒゴタイ〉〈アザミ〉などの名が,いくつもの近縁属にわたって混乱して使用されている。
古くはトウヒレンはセイタカトウヒレンS.tanakae Fr.et Sav.を指していた。茎は高さ70~100cm,縦に翼をつけ,根出葉は開花時に枯れている。花期は9~10月。総苞は黒紫色で,総苞片は9列。関東~中部地方,岡山県,朝鮮,中国に分布する。近畿と中国地方の山中の木陰に生育するオオダイトウヒレンS.nipponica Miq.は茎に狭い翼をつけ,根出葉を花時に欠く。総苞片は5列,外のものほど短く,いずれも先が外曲する。ヒメヒゴタイS.pulchella Fisch.は総苞片の先端部が淡紅紫色の花びら状となっている。北海道~九州,朝鮮,中国東北部,東シベリア,サハリンに分布し,乾燥草原に生える越年草である。トウヒレンの仲間でありながらアザミの名がつくものとしてホクチアザミ,シラネアザミ,ミヤコアザミ,ミヤマキタアザミ,キクアザミなどがある。ホクチアザミS.gracilis Maxim.は葉の裏面に白綿毛を密生している。愛知県以西~九州,朝鮮に分布し,日当りのよい山の乾いた草原に生える。シラネアザミS.nikoensis Fr.et Sav.は総苞片の背に帯褐色のちぢれ毛を生じる。頭花は柄が短く,密な散房状につく。福島・栃木・群馬・長野県の標高1500~2500mの日当りのよい草原に生育する。ミヤコアザミS.maximowiczii Herderは葉が羽状に深裂する。山の草原にかなり普通にある多年草で,本州,四国,九州から朝鮮,中国東北部,アムールに分布する。キクアザミS.ussuriensis Maxim.は葉が羽状に浅裂~中裂する。分布域はミヤコアザミの分布域に近い。
執筆者:小山 博滋 カシミール付近のヒマラヤ山地に産するモッコウ(木香)S.lappa Clarkeは高さ1mをこえる大型草本である。根には精油を含み,芳香がある。成分はセスキテルペンで,ステロイド,トリテルペノイドなどを含有する。漢方では健胃薬や胃腸薬として嘔吐,下痢,腹痛などに用いられる。生薬として中国などに輸出される。英名はcostus root。なお生薬で木香と呼んでいるものには,青木香(せいもつこう)(ウマノスズクサの根),川木香(せんもつこう)(キク科のVladimiria souliei(Franch.)LingやV.denticulata Lingの根),土木香(どもつこう)(キク科のInula helenium L.の根)などがある。
トウヒレン属Saussureaは花が美しいので,ときに山草として栽植されることもあるが,重要な観賞植物としては育成,育苗されていない。
執筆者:堀田 満+新田 あや
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報