トガリネズミ(読み)とがりねずみ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「トガリネズミ」の意味・わかりやすい解説

トガリネズミ
とがりねずみ / 尖鼠

哺乳(ほにゅう)綱食虫目トガリネズミ科トガリネズミ属に含まれる動物総称。日本にはラクスマントガリネズミSorex caecutiensの亜種として北海道エゾトガリネズミS. c. saevus、本州にシントウトガリネズミホンシュウトガリネズミS. c. shinto、四国にシコクトガリネズミS. c. shikokensisが知られている。ただし、これら日本産の亜種をまとめて独立種シントウトガリネズミS. shintoとする説もある。

 トガリネズミ属Sorexの動物はユーラシアに21種、北アメリカに29種、両地域共通種が2種で計52種が知られている。日本では北海道に4種、本州に2種、四国に1種がある。いずれも温帯または寒帯に分布し、これらの地域の地表に形成される落葉層や腐植層を主要な生息場所としている。頭胴長は10センチメートル以下の小形のネズミ型動物で、名前のとおり吻(ふん)が細長くとがり、目は小さい。耳介は大部分が毛に埋まる。頭骨は長三角形で、歯の先端が赤染されている。歯式は

で合計32本。昆虫、クモジムカデミミズなどを主食とする。これまで調べられたものではいずれの種も各個体が明瞭(めいりょう)な縄張りテリトリー)をもち、それをもてることが冬の生存率に関係するという。縄張りの大きさはヨーロッパトガリネズミS. araneusでは370~1100平方メートル、ヨーロッパヒメトガリネズミS. minutusでは530~1860平方メートルである。春に主要な繁殖期があるが、秋に繁殖するものもある。産子数はヨーロッパトガリネズミ1~10(平均7)、エゾトガリネズミ4~8(平均7.1)、オオアシトガリネズミS. unguiculatus3~7(平均5.4)などで、多くの種で調べられている。子は無毛で生まれ、17~21日で開眼する。春に生まれたものが秋に成熟することもあるが、通常は次の年に繁殖する。寿命は通常1年以内で、最大16か月。代謝率が高いため昼夜を問わず活動し、各個体は1~2時間の周期で休息と活動を繰り返すことが知られている。北アメリカのカワリトガリネズミS. vagransでは超音波によるエコロケーション反響定位)をすることが知られている。北ヨーロッパから北海道まで分布するチビトガリネズミS. minutissimusは頭胴長4.5~5センチメートル、尾長2.7~3センチメートルで、世界最小の哺乳類の一種である。北アメリカ北部のミズベトガリネズミS. palustrisは水生適応したもので、北海道のオオアシトガリネズミは半地下性に適応した種である。

[阿部 永]

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改訂新版 世界大百科事典 「トガリネズミ」の意味・わかりやすい解説

トガリネズミ (尖鼠)

食虫目トガリネズミ科トガリネズミ亜科Soricinaeに属する哺乳類の総称。体長5cm,体重数gくらいの種を多く含む体のもっとも小さな哺乳類の一群として知られる。姿はネズミに似るが,口先と鼻が長くとがり,目はごく小さい。前足,後足とも5指があり,尾は体長と同程度の長さのある種が多い。体毛は柔らかなビロード状。ふつう黒褐色ないしチョコレート色。ふつう森林の湿った林床にすみ,昼夜の別なく活動し,小さな体を活用して,草の茂みや落葉の間などをかいくぐって食物をさがす。超音波を用い,コウモリのような音響定位行って,もののありかをさぐることができる。北アメリカのブラリナトガリネズミBlarina brevicaudaなどの一部の種は,有毒な唾液をもち,獲物の捕獲に使う。長く前方にのびる門歯は,狭い隙間に潜む虫などをピンセットのようにつまみ取るのに適する。歯の先端部が美しい橙赤色をしているのが特徴で,ほかにこのような色の歯をもつ哺乳類は知られていないが,その機能は明らかではない。食物は,おもにミミズ,クモ,昆虫などの無脊椎動物で,ほかに種子も食べる。北半球の寒い地方を中心に分布し,ヨーロッパの水生のミズトガリネズミNeomys fodiensなどを含めて80種以上ある。日本では,北海道に多く,本州,四国では高い山に限られ,九州には分布しない。

 日本の代表種シントウトガリネズミSorex shintoは,北海道,本州,四国に分布し,体長6.5cm,尾長4.8cm,体重6g前後。北海道では平地にもすむが,本州,四国ではふつう標高1800m以上の亜高山帯と高山帯にすむ。初夏に3~7子を生む。寿命は1年前後。ほかに本州中部の高山にのみ分布するアズミトガリネズミS.hosonoi,北海道東部にすむ最小の哺乳類の一つであるトウキョウトガリネズミS.minutissimus hawkeri(体長4.2cm,尾長2.9cm)などがあり,大きな前足をもつ北海道のオオアシトガリネズミS.unguiculatusは,しばしばモグラとまちがえられる。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「トガリネズミ」の意味・わかりやすい解説

トガリネズミ
Sorex; shrew

食虫目トガリネズミ科トガリネズミ属の動物の総称。哺乳類中最小といわれ,体長2~5cm内外。普通のネズミ (齧歯目) に似るが,口が長く突き出し,眼が小さく,耳介が短く,歯の先端が赤く染まる。多くの種が知られており,ユーラシア大陸,北アメリカから中央アメリカに分布する。日本にはチビトガリネズミ S. minutissimus,その亜種トウキョウトガリネズミ S. m. hawkeri (体長 2cm,尾長 3cmで哺乳類中の最小種) ,ヒメトガリネズミ S. minutusなどが生息する。

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百科事典マイペディア 「トガリネズミ」の意味・わかりやすい解説

トガリネズミ

食虫目トガリネズミ科の哺乳(ほにゅう)類の総称。世界に20数属300種前後が知られている。体長4.5〜17cm,体重1.5〜170g。ユーラシア,アフリカ,北米〜南米北部に分布。ホンシュウトガリネズミは体長5〜7cm,尾5cmほど。吻(ふん)はとがり,体色は暗褐色。樺太,本州中部以北の低山〜高山の森林にすみ,昆虫,クモ,ミミズ,小さなネズミなどを食べる。北海道のトウキョウトガリネズミ(体長5cm未満,尾3cm,体重1.5〜1.8g)は世界最小の哺乳類の一つ。トウキョウトガリネズミは絶滅危惧II類(環境省第4次レッドリスト)。

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世界大百科事典(旧版)内のトガリネズミの言及

【食虫類】より

…昆虫,ミミズなどの無脊椎動物を主食とするが,ネズミなどを食べるものもある。おもに夜行性で単独生活をし,ソレノドン,ブラリナトガリネズミなどは,獲物にかみついて顎下腺(がつかせん)から分泌される毒液を注入し,弱らせてとらえる。またトガリネズミは超音波を発し進路を探る。…

※「トガリネズミ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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