改訂新版 世界大百科事典 「とりもち」の意味・わかりやすい解説
とりもち
birdlime
おもにモチノキ科モチノキ属植物の樹皮に含まれる粘着性ゴム状物質。日本では古くから粘着剤として用いられた。主成分は蠟質でもち蠟といい,ほかに樹脂,ゴムを数%含有する。もち蠟はパルミチン酸C16H32O2などの高級アルコールエステルで,アルコールはモチルアルコールC28H46O,イリシールアルコールC22H35O,トロコールC26H44O2などである。そのほかトロコステリン,トロコ酸,セロチン酸,オレイン酸のエステルなども含む。灰色の不透明体であるが,加熱して完全に脱水すると赤橙色透明の粘度の高い水あめ状物質となる。エーテル,クロロホルム,ベンゼン,石油エーテルなどに可溶,アルコールには一部溶け,水には不溶である。原料植物としてはモチノキ(含有量12%),イヌツゲ(10%),クロガネモチ(10%)(以上モチノキ科)や,ヤマグルマ(12%)(ヤマグルマ科)で,春から夏にかけて樹皮を水につけて腐敗させ,秋になってから臼でついて組織片を洗い流してとりもちを採取する。粗製品は赤もちと呼び,漂白したものを白もちという。また本もち(モチノキ),青もち(イヌツゲ,タラヨウ),山車もち(ヤマグルマ)の製品がある。本もちの白もちが最上等品である。ヨーロッパでもセイヨウヒイラギ,セイヨウヤドリギなどから採取することがあるが,その量は少ない。とりもちはおもに捕虫・捕鳥用に用いられたが,ハエ取り紙の材料,ゴムの代用,特殊ペイントや印肉の添加物として用いたこともある。1949年以降,狩猟用とすることは禁止。
執筆者:内田 安三
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報