印章を押すのに使う色料。中国では印色または印泥という。その起源は明らかでないが,漢時代ころには文書の封じ目に,ちょうどヨーロッパの封蠟のように一種の粘土を使い,その泥に印を押した。これを封泥という。そのため後に朱印を使うようになってからでも,朱肉のことを印泥と呼ぶのである。隋・唐時代からは朱印で押した実物が現存しているが,ことに正倉院文書には8世紀の実物が多く残っている。このころの肉は〈水印〉といって油けのない水性の朱砂(辰砂(しんしや))を使っている。〈水印〉は元時代ころまで続いて使用されたようである。元・明になると印材に石が多く使われるようになったので,印色もこれに適するように改良された。油性の印色はこれに始まった。油印法は元の吾丘衍(ごきゆうえん)の《学古編》に見え,明の文三橋の《印史》にも,印色にヒマシ油を用いることが見えている。今の朱肉の製法は,朱砂を細末にしたものに油を少しずつ注加してよく練り,それに艾(もぐさ)を細かく綿のようになるまでついたものを加えて作る。油はヒマシ油を主とし,それにゴマ油少量を加える。中国製のものは,上質のものには宝石,金箔,真珠,サンゴ,メノウ,雲母などを加えたものがあり,これを八宝印泥という。また中国製のものは艾が精製されており,ほとんどこれの混入を肉眼では見分けがたいほどである。朱砂と油と艾綿の割合は7.3:2:0.7である。朱肉には黄みの勝った黄口(きぐち)と,鮮紅色の赤口(あかぐち)とがあるが,これは質とは関係なく,要するに好みの問題である。近来は高価な朱砂のかわりに価の安い洋紅を使ったものがあるが,これは印影の輪郭がにじんではっきりせず,そのうえ色も劣るので,書画の落款(らつかん)や,鑒蔵(かんぞう)印,蔵書印などの目的には不適当である。印肉は朱色が普通であるが,黒,藍,茶,緑青などのものもある。印肉は古いものほど色が落ちついて尊ばれるが,古くなって疲れてくると,油けが抜けてつきがわるくなるので,中国では陳麻油という油を混じて練りなおす。また印肉は油性だから夏はゆるくなり,冬はかたくなる傾向がある。
→印章
執筆者:安藤 更生
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
印章や印鑑などに付着させて押し写すための色料。朱色が多いことから朱肉ともいう。落款(らっかん)用、公用などの高級朱肉は銀朱(硫化水銀)などを原料としているが、事務用などの一般朱肉には金属朱、代用朱などが用いられている。普通これらの原料にひまし油や繊維などを混ぜ、練り合わせてつくるが、繊維のかわりに朱油をパッドに浸透させたスポンジ朱肉もある。印肉は、中国南北朝時代に書画の落款に使われたのが最初で、日本へは仏教伝来とともに渡来し、奈良時代に官印として使われだした。一般に普及したのは明治以降、つまり署名捺印(なついん)をもって証(あかし)とする風習が定着してからのことである。現在、一般事務用朱肉として広く使われているスポンジ朱肉は、第二次世界大戦後に合成樹脂のスポンジ体が開発されてからで、簡便なため急激に普及した。
[野沢松男]
※「印肉」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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