生体内に広くみいだされる不飽和脂肪酸の一種。水に不溶、アルコール、ベンゼンなどの有機溶媒に可溶。純粋なものは無色無臭の油状液体であるが、空気中に放置すると酸化されて淡黄色または橙(とう)黄色に着色し悪臭を放つ。水素添加によってステアリン酸に還元される。天然には、オリーブ油、椿油(つばきあぶら)、茶実油などの主要成分として、また、牛脂、豚脂などの主要構成成分として存在する。生体内では、パルミチン酸からステアリン酸を経て合成される。さらに植物体内では、リノール酸へと変換されうる。遊離の酸としてよりも、主としてグリセリンとのエステル(グリセリド)の形で脂肪組織中に存在するほか、リン脂質の構成成分として生体膜に存在する。動物細胞質膜を構成する不飽和脂肪酸のなかでもっとも豊富に存在する。工業的には、おもに獣脂を原料として製造され、さらに、軟せっけん(成分は脂肪酸のカリウム塩で、液状で主として手洗い用)など特殊なせっけんの原料や織物の防水材料などに応用される。
[若木高善]
オレイン酸は1分子内に一つのシス型二重結合をもち、トランス型であるエライジン酸の幾何異性体である。すなわち、同種の置換基が二重結合に対して同じ側(シス)にあるのがオレイン酸で、交差して反対側(トランス)にあるのがエライジン酸である。常温ではオレイン酸が液体、エライジン酸は固体である。
[廣田 穰]
オレイン酸は動物体内で合成される代表的な不飽和脂肪酸で、貯蔵脂肪中に多く含まれ、よいエネルギー源である。摂取した場合、血漿(けっしょう)コレステロール濃度に対しては影響しないとみなされている。必須(ひっす)脂肪酸が不足すると、不飽和化産物のエイコサトリエン酸が蓄積するので必須脂肪酸欠乏判定の指標となる。
[菅野道廣]
オレイン酸
分子式 C18H34O2
分子量 282.5
融点 13.3℃
沸点 223℃/10mmHg
比重 0.895(25℃)
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
油酸,シス-9-オクタデセン酸ともいう。動植物油脂成分として天然に広く存在する代表的な不飽和脂肪酸。化学式CH3(CH2)7CH=CH(CH2)7COOH。無色の液体で,融点13.3℃,沸点223℃(10mmHg),比重0.8905(20℃),屈折率1.4586(20℃)。多くの油脂に含まれているが,とくにオリーブ油(70~85%),ツバキ油(81~88%),茶実油(76~85%)に多く,動物脂肪ではラード(50%),牛脂(43%),馬脂(55%)などに含まれる。脂肪酸を鉛塩として,95%アルコールに不溶な固体酸を分離し,液体酸の部分をリチウム塩とする。これから50%アルコール不溶分を分取し,メチルエステルとして蒸留精製して得る。セッケン製造原料,化粧品用のほか,繊維工業用油剤,ゴム工業用乳化剤,プラスチック工業用可塑剤,製革,金属セッケン,潤滑油,グリースなどに広く利用される。亜硝酸,セレンなどを作用させると,シス型構造がトランス型構造に異性化されエライジン酸になる。
執筆者:内田 安三
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
(Z)-9-octadecenoic acid.C18H34O4(282.47).CH3(CH2)7CH=CH(CH2)7COOH.油酸ともいう.グリセリドとしてほとんどあらゆる動物,植物油中に含まれている.とくにオリーブ油などの油脂類の主成分の一つ.無色無臭の油状液体.融点13.4 ℃,沸点204 ℃(6.7×102 Pa).0.898.1.45823.水に不溶,有機溶媒に可溶.空気中に放置するとしだいに酸素を吸収して着色し,腐臭を発する.また,還元すればステアリン酸に,異性化させるとトランス形のエライジン酸になる.軟せっけん,潤滑油などの原料である.密栓して,暗所に保存する.[CAS 112-80-1]
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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