知恵蔵 「トルコ・クーデター未遂」の解説
トルコ・クーデター未遂(2016)
直後、エルドアン大統領は空路でイスタンブールに向かうと共に、携帯電話の映像を通して国民にクーデターを阻止するよう訴えた。これに多くの国民が応じ、深夜の街頭に出て反乱軍の進行を阻止。大統領派の正規軍が優勢に転じ、一般市民を含む200人以上が犠牲になったものの、発生からわずか半日で事態は収束した。
クーデターには軍の参謀総長や幹部の多くは参加しておらず、反・世俗主義の現政権に不満を持つ守旧派の一部が企てたともみられるが、収束から間もなく、エルドアン大統領は米国に滞在しているフェトフッラー・ギュレン師を首謀者と断定した。また非常事態宣言を出して、ギュレン支持派と見られる軍人約4500人を粛清、公務員約8万人を職務停止処分にし、自治体の首長28人を解任した。メディアへの圧力も高まっており、EU(欧州連合)は人権無視の強権政治との批判を強めている。
一方、ギュレン師はクーデターの関与を全面否定。トルコ政府から身柄引き渡しを求められた米国政府も「明確な証拠がない」として拒否している。ギュレン師は教育・社会奉仕活動に熱心なイスラム穏健派の指導者で、国内外に多くの支持者を持つ。イスラム重視の公正発展党(AKP)を率いるエルドアンとは協力関係にあったが、大統領に就任したエルドアンが独裁色を強めるに連れて対立を深めた。トルコ政府は15年にギュレン師が率いる団体「ギュレン(ヒズメット)運動」をテロ組織に指定している。
(大迫秀樹 フリー編集者/2016年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報