粛清(読み)シュクセイ(英語表記)purge

翻訳|purge

デジタル大辞泉 「粛清」の意味・読み・例文・類語

しゅく‐せい【粛清】

[名](スル)厳しく取り締まって、不純・不正なものを除き、整え清めること。特に、独裁政党などで、一体性を保つために反対派を追放すること。「反対派を粛清する」「血の粛清

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精選版 日本国語大辞典 「粛清」の意味・読み・例文・類語

しゅく‐せい【粛清】

  1. 〘 名詞 〙
  2. きびしく取り締まって乱れや不正を取り除き、世の中を清らかにすること。
    1. [初出の実例]「郡司有能繁殖戸口、増益調庸、勧課農桑、人少匱乏、禁断逋逃、粛清盗賊〈略〉立身清慎」(出典:続日本紀‐和銅五年(712)五月甲申)
    2. [その他の文献]〔後漢書‐党錮伝・岺
  3. 政治団体や秘密結社の内部で、政策や組織の一体性を確保するために、反対者を追放や処刑などにより排除して純化をはかること。
    1. [初出の実例]「この絵の中に一九五三年に粛清されたベリヤの姿が全然見当らない」(出典:ふだん着のソ連(1955)〈渡辺善一郎〉消えたベリヤ)
  4. ( 形動 ) 世の中がよくおさまり、平穏であること。よく整って濁りのないこと。また、そのさま。
    1. [初出の実例]「妖黥已仆祲氛亡、海宇粛清塵不揚」(出典:星巖集‐丙集(1837)螽湖客漁集・彦禰)
    2. [その他の文献]〔漢書‐韋賢伝〕
  5. ( 形動 ) 冷たく清らかなさま。静寂なさま。〔嵆康‐琴賦〕

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改訂新版 世界大百科事典 「粛清」の意味・わかりやすい解説

粛清 (しゅくせい)
purge

政治団体や秘密結社などの内部で,組織の一体性や純粋性を保持するために,異分子を排除すること。その方法として,成員中の反対派,潜在的対抗者を除名,追放したり,投獄(強制収容所に入れるなど)や政治裁判によって処刑したりする。粛清は独裁国家や社会主義国家において多くみられる。それは政治権力が1人あるいは1党に限られ,他の勢力の存在を認めないという性格による。

 労働者階級の前衛党であると自己規定する共産主義政党は,とくに権力を掌握したのち,自己の内部に出世主義者,イデオロギー的偏向者,動揺分子,他の政党の出身者,さらに異質な階級の人物が入りこむ可能性があるとして,コミンテルンは各国共産党に定期的な粛清を義務づけた。レーニン時代のソ連における粛清は主としてこのような任務に限られ,党内反対派への抑圧という効果は予定されなかった。しかし,党内反対派の一掃が重要な任務となり,スターリン体制が形成・確立する1928-29年以後,粛清はたんに潜在的・顕在的政治的反対派だけでなく,党の任務に障害となるとされる社会層(インテリクラークや,それらにつながりのある者)を一掃することがめざされ,さらに粛清には党だけでなく治安機関も関与することとなった。粛清は,とくに大きな社会的変動に伴う組織内部の動揺をおさえ,潜在的反対者や,指導に懐疑的な者,任務に忠実でないものを除くものであって,指導者の政治的地位を固めることとなる。さらにテロルの可能性を示すことによって社会全体を恐怖と不安に陥れ,このことによって全般的支配を容易に達成するための一つの手段となった。1936-38年の大粛清はこの典型例である。この時には治安機関がスターリンの指導のもとで,党・政府の幹部や多くの人々を追放し,粛清裁判にかけ,また強制収容所に送った。同様の例は第2次大戦後のスターリン体制や東欧諸国でも生じ,とくに1948年ユーゴスラビアをコミンフォルムから追放するのと並行して,各国で反対派的コミュニストだけでなく,独立派コミュニスト,外交官や政府の役人が粛清裁判で追放された。スターリン批判後,粛清は政治的キャンペーンとしては影をひそめ,党員証の書換えや党員の党規律や規約の違反という形態で除名が実施される。中国における整風運動や整党運動も同様な目的をもつものであるとされる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「粛清」の意味・わかりやすい解説

粛清
しゅくせい
чистка/chistka ロシア語
purge 英語

本来の意味は、組織的な点検による共産党員としてふさわしくない者の党からの追放である。旧ソ連共産党は、権力についた党には内部に腐敗がおこるので、定期的な浄化が必要であるという考えにより、党規約に粛清の制度を定め、1921年から36年まで何回か特別委員会をつくって全党員を点検し、党内から腐敗分子を追放する措置をとってきた。しかしスターリンが党の指導権を確立した20年代末から、粛清の制度は、当時の路線に批判的な者を党から追放するために利用され、混乱を招いたので、39年の規約改正で粛清の制度は廃止された。以後ソ連では、腐敗分子の追放は規約の定める通常の手続で個別的に行われていた。

 粛清は西側諸国の文献では別の意味でも用いられている。すなわち1920年代から50年代初めまで、旧ソ連では路線、政策をめぐる論争で少数派の幹部が党と政府の要職を解任され、とくに30年代には当時の党規約の定める粛清の手続によらず、多数の幹部が違法に逮捕され、そのなかには殺された者が多く、同じ事態は50年代に若干の東欧諸国でもおき、そのため西側諸国で「血の粛清」ということばが生まれた。中国では50年代なかばの反右派闘争のとき、毛沢東(もうたくとう/マオツォートン)に批判的な多数の知識人が弾圧され、60年代なかばから70年代なかばの「プロレタリア文化大革命」時代には、反毛沢東派の多数の幹部が弾圧され、毛沢東の死後は逆に彼の側近が逮捕され、党内の毛沢東派の多数の幹部が失脚したが、西側諸国の文献ではこれらの例も粛清とよばれている。

 大半の社会主義国では1950年代なかばに、党内での意見の違いを少数派の組織的排除と弾圧で解決する過去の実践が非難され、以後このような事態はなくなっており、西側諸国の使う意味での粛清はない。しかしベトナム労働党は、ベトナム戦争後の70年代なかばに、党の強化のため非党員の参加のもとに全党員を点検し、不良党員を追放する運動を行った。このような本来の意味での粛清は、他の若干の社会主義国でも行われている。

[稲子恒夫]

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普及版 字通 「粛清」の読み・字形・画数・意味

【粛清】しゆくせい

静まり、清らかとなる。〔後漢書、劉表伝〕表、招誘方り、威懷ねて洽(あまね)し。其の姦猾(かんくわつ)の宿も、(あらた)めて效用を爲す。里肅、大小咸(み)なびて之れにす。

字通「粛」の項目を見る

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「粛清」の意味・わかりやすい解説

粛清
しゅくせい

政党,政治結社において,理論上,あるいは政策上の対立を内部論争による解決や政治的妥協によって収拾するのではなく,一方が他方を組織から排除,追放して政治的に抹殺し組織の純化をはかること。特に革命運動とそれをになう組織のなかに典型的なものがみられる。対立する双方の自己絶対化,権力欲,個人的怨恨などが重なり合い,理論,政策上の対立は行政的に処理され,粛清される側は,しばしば「敵のスパイ」や「反革命」などのレッテルをはられて政治的破滅に追込まれる。古くは O.クロムウェルや M.ロベスピエールの独裁下にもみられたが,レーニン死後のソ連共産党およびスターリンによる一連の粛清が,その規模と影響によって最も深刻である。第2次世界大戦後は「チトー主義者」の粛清,中国共産党内における劉少奇,林彪の失脚がある。

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旺文社世界史事典 三訂版 「粛清」の解説

粛清
しゅくせい

政党・政治結社が政策・運動方針や組織の一元的純化をはかるため,種々の強権的な方法を用いて反対派を排除すること
政治権力がひとりの人物または1つの党に限られる,独裁国家や社会主義国家に多く見られる。クロムウェルやロベスピエールが反対派を排除したのもこれにあたる。1930年代のソ連では,革命と反革命が交錯 (こうさく) する緊張した情勢下で,スターリンがトロツキー・ジノヴィエフをはじめ,おびただしい人を降任・追放・処刑し,独裁体制を樹立した。ヒトラーもナチス党内の反対派を粛清した。第二次世界大戦後でも,ソ連・東欧などの共産党内部で粛清が行われており,中国でも,手段は独自の方法をとるが,しばしば反対派がきびしい追放措置をとられている。

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世界大百科事典(旧版)内の粛清の言及

【除名】より

…また主流派と反対派とが相互に相手を除名しあうことにより,組織体が分裂することもまれに存在する。 除名がとくに大きな政治的意味をもつのは,イデオロギー的基盤が強固な政治組織,とくに社会主義,共産主義運動や特定のイデオロギーを標榜する一党制国家においてであり,その場合の除名は〈粛清〉とよばれている。1927年のトロツキーのロシア共産党からの除名や,1948年のコミンフォルムからのユーゴスラビア共産党の除名などが有名である。…

【大粛清】より

…1930年代後半のソ連邦においてスターリンが行ったソ連邦共産党幹部や軍人,知識人,大衆に対するテロルを指し,主として〈西側〉の諸国で用いられる呼称。粛清とは元来プロレタリアの前衛党の党員としてふさわしくない人物を党から除名することを意味するもので,テロルとは無関係な概念であった。 1917年の革命後21年までに共産党以外の党派が消滅し,30年ごろまでに分派の禁止措置により党内反対派やグループが禁じられ,スターリンの支配が形成された。…

※「粛清」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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