日本大百科全書(ニッポニカ) 「ドクトル・マブゼ」の意味・わかりやすい解説
ドクトル・マブゼ
どくとるまぶぜ
Dr. Mabuse, der Spieler
ドイツ映画。1922年製作。雑誌連載の同名小説を原作としたフリッツ・ラング監督作で、「大賭博師―時代の肖像」Der große Spieler-Ein Bild der Zeitと「地獄、現代人のゲーム」Inferno, ein Spiel von Menschen unserer Zeitの2部からなる。
大都市に起こるさまざまな犯罪。一見脈絡のない事件の背後には、変装の達人にして催眠術を操り、犯罪組織を率いるマブゼ博士(ルドルフ・クライン・ロッゲRudolf Klein Rogge、1885―1955)がいた。その最大の犯罪は贋金(にせがね)造りだった。闇カジノで手掛りをつかんだウェンク検事は、一連の事件とマブゼとの関係を暴く。死闘の末にマブゼを地下の贋金工場に追いつめるが、逮捕されたマブゼは正気を失い、呆然として贋金を数えていた。
デフォルメされたセットや様式的な演技に特徴のある「表現主義映画」の一つにあげられるが、犯罪者と官憲の闘いを数々のエピソードで展開する連続活劇的な構成のなかに、第一次世界大戦後の混乱したドイツの世相を映し出した本作には、リアリズム的志向も認められ、特異な時代の諸相を超人的犯罪者に象徴して描き出した作品となっている。
[濱田尚孝]
『ジークフリート・クラカウアー著、平井正訳『カリガリからヒットラーまで』増補改訂版(1980・せりか書房)』▽『クルト・リース著、平井正他訳『ドイツ映画の偉大な時代――ただひとたびの』(1981・フィルムアート社)』▽『クラウス・クライマイアー著、平田達治他訳『ウーファ物語――ある映画コンツェルンの歴史』(2005・鳥影社)』▽『hrsg. von Gänter Dahlke und Günter KarlDeutsche Spielfilme von den Anfüngen bis 1933(1993, Henschel Verlag, Berlin)』