贋金(読み)ガンキン

デジタル大辞泉 「贋金」の意味・読み・例文・類語

がん‐きん【×贋金】

偽造貨幣。にせがね。

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精選版 日本国語大辞典 「贋金」の意味・読み・例文・類語

にせ‐がね【贋金・偽金】

  1. 〘 名詞 〙 本物に似せて造ったかね。偽造の貨幣。〔日葡辞書(1603‐04)〕
    1. [初出の実例]「似せ金をおいて追掛られ」(出典:談義本・艷道通鑑(1715)四)

がん‐きん【贋金】

  1. 〘 名詞 〙 本物の貨幣に模して作ったかね。にせがね。〔新撰字解(1872)〕

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改訂新版 世界大百科事典 「贋金」の意味・わかりやすい解説

贋(偽)金 (にせがね)

貨幣(紙幣も含む)を偽造したもの。その歴史は貨幣の製造,流通とともにあり,日本では和同開珎発行直後の翌709年(和銅2)1月以来頻繁に私鋳銭(しちゆうせん)に対する禁令が出されている。しかし,室町時代のように私鋳銭が日常的に流通したような例もあり,私鋳銭が贋金であるかどうかは,金属貨幣の場合はその品位と社会条件によって左右されることもあった。偽造の犯人に対しては711年10月,すでに斬罪(ざんざい)に処する旨の布告があり,江戸時代には引回しのうえ磔(はりつけ)とされていた。1695年(元禄8)から発行された金貨の元字金(げんじきん)は鉛などを加えた品位の低いもので,金めっきようの外観を呈していたため,この偽造品が多く出回り,〈当時贋造(がんぞう)する奸民かんみん)を磔にする者多し〉と《守貞漫稿》は記している。日本の紙幣は1334年(建武1)に発行計画が発表されたが実行されたかどうか明らかでなく,贋札も江戸時代に入って藩札などが発行されるに伴って出現したようで,各藩は犯人に対して磔,獄門の極刑を科している。明治に入っては,ドイツに印刷を発注した二円札(1872発行)の贋物が大量に出回ったことがある。第2次大戦後で有名なのは,〈チ37号事件と呼ばれる聖徳太子像を刷り込んだ千円札の贋造・行使事件で,1961年12月に最初の1枚が秋田市で発見されてから,63年11月までに東北,関東,中部,近畿にわたって総計343枚が行使され,この種の事件としては史上最大の捜査が行われた。しかも,ついに犯人を発見,逮捕するにいたらなかったが,犯人が贋札づくりにかけた製造費や,各地で行使するために要した交通費などを考えると,経済的な利益はまったくなかったはずである。ともかく貨幣のあるかぎり,贋金もまた跡を絶たないかも知れぬが,同時にそれによってもうけることも不可能とされている。
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紙幣流通以前の贋金づくりcounterfeiting(forgery)は贋黄金の製造が中心であり,技術的には錬金術が悪用された。金の品質を落として増量する技法や金めっきは,すでに古代エジプトで知られており,贋金の流布が目に余った古代ローマ時代には,ディオクレティアヌス帝が錬金術を含めて293年にこれを禁圧したほどである。このような事情から,純金と贋物との判別法も古くから求められ,前3世紀アルキメデスが浮力が働くことを利用して金の純度を鑑定した逸話は有名である。しかし,中世から18世紀に至るまで,ヨーロッパ各地の領主王族は,黄金を製造できると称する錬金術師を雇って財政を豊かにする試みを繰り返した。その結果,錬金術師が流す贋黄金は跡を絶たなかった。著名な例としては,プロイセン国王フリードリヒ1世に雇われ,水銀から黄金を抽出しようとした贋錬金術師ルッジェロRugiero伯(本名カエターノDon Domenico Manuel Caetano,?-1709)などがいる。

 贋金は紙幣の普及とともに新しい局面を迎えた。1789年フランスで革命政府が発行した紙幣アッシニャは,反対派が多量の贋札をばらまいたこともあって,わずか7年後には廃棄されている。また1812年にはナポレオン1世がパリに設置した印刷機を使って贋札を作り,ロシア遠征用の軍需品を購入したという。アメリカでも開国以来贋金が横行し,贋造防止のために開発された細紋彫刻機械などを活用したにもかかわらず,1930年代には100万ドルに近い贋札が市場に現れる事態となった。そこでF.J.ウィルソンを長とするシークレット・サービスが1937年から贋札鑑定のキャンペーン活動を開始し,やがて〈ノウ・ユア・マネーKnow Your Money〉という一大教育キャンペーンにまでこれを発展させた。この効果は大きく,2年後には贋金の出回りが約1/3に減少したという。一方,イギリスでは第1次大戦の勃発を機に金貨に代わって紙幣が多量に流通しはじめ,贋札の製造にはずみをつけることになった。

 第2次大戦中にはさらにドイツによるイギリス経済かく乱をねらったポンド札偽造事件が起きている。ナチスのR.ハイドリヒの試みた贋札の大量流布,H.ヒムラーが指揮をとってイギリス内外に贋札をばらまこうとした〈アンドレアス計画〉などがそれだが,大がかりな計画は結局実行されずに終わった。なお,ポルトガルで発生した贋札偽造事件は20世紀最大のものといわれる。対アンゴラ貿易にたずさわっていたレイスA.V.A.Reis(1896-1955)という青年が,ポルトガル紙幣を印刷していたイギリスの会社をだまして,政府の許可なく大量の紙幣を印刷させた事件である。したがって,この贋金はポルトガル政府が管理する紙幣番号以外は本物と同一であり,発覚が遅れてインフレを増大させた。レイスが作らせた贋札は数億エスクドにのぼり,このうち1億エスクド以上が市場に流れたという。急増するこれら贋金事件に対応するため,世界各国の警察は1923年にウィーンで国際会議を開いて以来,緊密な協力態勢を取っている。
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