ドイツの哲学者、教育学者。新カント学派のうちマールブルク学派の代表者の一人。デュッセルドルフに生まれ、のちマールブルク大学教授。ヘルマン・コーヘンの思想を継いで、精神科学との関連のなかで、批判主義の立場からその哲学を展開した。学問は事実ではなくて生成であり、したがって静的でなく発展するものである。換言すれば、学の中心をなす先天的範疇(はんちゅう)もまた生成・発展をしていくのであって、学はまさしくこうした範疇の体系にほかならない、とした。このような思想の形成は、カントのほかにフィヒテ、ヘーゲルなどからの影響によるところが大きい。ナトルプはまた、ヘルバルトが開拓した近代教育学に哲学的な基礎づけを与えたことでも知られている。
著書に『社会教育学』(1898)、『精密科学の論理的基盤』(1910)、『批判的方法にもとづく心理学総論』(1912)などがある。
[武村泰男]
『ナトルプ著、篠原陽二訳『社会理想主義』(1962・明治図書出版)』▽『篠原陽二訳『社会的教育学』(1983・玉川大学出版部)』
ドイツの哲学者,教育学者。新カント学派の一つであるマールブルク学派に属する。彼は,思惟がその対象を生産すると考えたH.コーエンの影響を受け,固有の法則に従って自己のさまざまな対象を生み出していく働きとして意識をとらえ,学問,道徳,芸術,宗教などの文化全体を,意識のこうした働きによって内面的統一的に理解し基礎づけようとした。これはカントの観念論の徹底であるが,彼のこうした努力は,意識そのものを,それが生み出したものを手掛りとしながら究明しようとする独特の〈一般心理学〉の研究へ進んでいった。また,彼は教育の理想を,人間が知性と感情と意志を調和的に発展させ,集団生活を精神的に規制していけるようにすることであると主張した。著書に《社会教育学》(1899),《精密科学の論理的基礎》(1910),《批判的方法による一般心理学》(1912)などがある。
執筆者:関 雅美
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