パウル(読み)ぱうる(英語表記)Hermann Paul

日本大百科全書(ニッポニカ) 「パウル」の意味・わかりやすい解説

パウル(Wolfgang Paul)
ぱうる
Wolfgang Paul
(1913―1993)

ドイツの物理学者。ローレンツキルヒに生まれる。ミュンヘン工科大学、次いでベルリン工科大学で物理学を学び、1939年にベルリン工科大学で博士号を取得した。1944年ゲッティンゲン大学の講師、1950年に同大学の教授になったが、1952年ボン大学に移り、教授および物理学研究所長に就任した。1964年から1967年までヨーロッパ原子核研究機構(CERN(セルン))の核物理部門の責任者を兼任した。なお、1978年(昭和53)に来日し、東京大学で講演を行った。

 1950年代に6極磁場を用いて原子線原子ビーム)を集中させる実験を開始した。そして4個または6個の電極を組み合わせて、イオンを狭い空間(1000分の1ミリメートル程度)に閉じ込めるイオン・トラップパウル・トラップ)を完成させた。この装置はイオンの周波数のずれがおこらないようにくふうされ、イオンを長時間保持することにより、安定した周波数を得られるようになった。パウルの開発したイオン捕捉(ほそく)技術は精密な原子分光学の発展に大きな役割を果たし、1989年にノーベル物理学賞を受賞した。ペニング・トラップを発明したデーメルト、分離振動場法を発明したラムゼーも同時に受賞した。

[編集部]


パウル(Hermann Paul)
ぱうる
Hermann Paul
(1846―1921)

ドイツの言語学者。ベルリン大学でW・フォン・フンボルトの後任者シュタインタールの指導を受け、1893年以来ミュンヘン大学教授を務める。青年少壮)文法学派の中心人物として活躍した。言語一般の史的変遷原理をドイツ語、ゲルマン語などの豊富な分析データを通して解明しようとした主著『言語史原理』(1880)は、19世紀の、「例外の生じない限り言語は法則的に変化する」とする言語史研究法を集大成したものとして有名である。彼の理論の特色は、〔1〕現代語の研究を基礎として過去の言語発達を追究する、〔2〕個人の心のなかでの作用を重視し、言語発達における類推、混同などの現象を積極的に取り上げ、心理学的に解明しようとする、などの点である。しかし「言語学は言語史の研究である」と考えるため、言語の体系そのものへの関心は弱い。1872年ブラウネWilhelm Braune(1850―1926)とともに学術雑誌『ドイツ語史・文学史論究』を創刊したのをはじめ、ドイツ語、ゲルマン語に関する研究も多くあるが、なかでも『ドイツ語辞典』『ドイツ語文法』『中高ドイツ語文法』はドイツ語学における必読の名著といえるものである。

[在間 進 2018年7月20日]

『福本喜之助訳『新装版 言語史原理』(講談社学術文庫)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「パウル」の意味・わかりやすい解説

パウル
Paul, Hermann

[生]1846.8.7. マクデブルク
[没]1921.12.29. ミュンヘン
ドイツの言語学者。フライブルク大学,次いでミュンヘン大学の教授。インド=ヨーロッパ語族,特にゲルマン語派の歴史的研究に力を注ぎ,その言語学方法論をもって青年文法学派の理論的指導者の役割を果した。『言語史原理』 Prinzipien der Sprachgeschichte (1880) では,言語の研究は歴史的でなければならないことを説き,言語の変化の原因を,主として心理学的に追究した。ほかに,『ドイツ語辞典』 Deutsches Wörterbuch (97) ,『ドイツ語文法』 Deutsche Grammatik (1916~20) などの著書がある。また,『ゲルマン文献学大系』 Grundriss der germanischen Philologie (3巻,1891) を編集,その後,この叢書は最高権威として今日まで続刊している。

パウル
Paul, Wolfgang

[生]1913.8.10. ローレンツキルヒ
[没]1993.12.6.
ドイツの物理学者。 1939年ベルリン工科大学で博士号を取得。ゲッティンゲン大学講師 (1944) ,のち教授 (50) 。 52年からボン大学教授。電子や電荷を帯びた原子であるイオンを,交流電場を使って狭い空間に長時間閉じ込める「パウル・トラップ」と呼ばれる手法を開発。原子の特徴と物理理論の精密な検証を可能とし,質量分析の基礎を築いた。また,この方法を応用して違ったイオン集団の中から特定のイオンを分離する手法を確立した。 N.F.ラムゼー,H.G.デーメルトとともに 89年ノーベル物理学賞を受賞。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

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