改訂新版 世界大百科事典 「ニシキベラ」の意味・わかりやすい解説
ニシキベラ
Thalassoma cupido
スズキ目ベラ科の海産魚。青緑色の地に暗赤色のすじあるいは斑紋が体の各部に配され,体側の中央と腹側に黒っぽい縦帯が走る。ニシキ(錦)の名のとおり美しい魚で,本州中部以南の磯にもっともふつうに見られるベラで,奄美大島以南ではむしろ少ない。ニシキベラは三崎,寺泊などでの呼名で,背の青みが目につくところからアオベラ,アオベロ(和歌山),アオテンジョウ(小湊)などと呼ばれ,ジョロクサビ(長崎)の名もある。全長20cmに達するが,ふつう見られるのは10cm前後のものが多い。産卵期は6~9月。ハーレムをつくってペアで産卵するものと,群れで産卵するものとの両方が見られる。いずれも産卵は午前中に行われる。貪食(どんしよく)なので簡単に釣れる。夏がしゅんで,煮つけにするが不味。
ベラ類にはホンソメワケベラのように掃除魚として有名なものがあるが,本種に近縁でフロリダからバハマにすむT.bifasciatusもふつうは小甲殻類を餌とするが,ときに大型の魚の外部寄生虫をとるので,こういった捕食魚の攻撃を受けない。同じ水域にこの種にそっくりのギンポHemiemblemaria similusがおり,ベラに混じって遊泳し捕食魚の攻撃を避け,また,餌とする小魚に恐れられずに近づくことができる。
執筆者:清水 誠
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報