日本大百科全書(ニッポニカ) 「のぞきからくり」の意味・わかりやすい解説
のぞきからくり
大道の演芸の一種。幅三尺余(ほぼ1メートル)の屋台の前面に五つ六つの、レンズがはめられたのぞき穴をあける。この穴からのぞくと箱の中の絵が拡大されて見え、その絵を一枚ごとに紐(ひも)で上へ引き上げて一編の物語を見せるという仕掛けである。屋台の左右に男女が立ち、鞭(むち)を持って屋台をたたきながら「からくり節」という七五調の古風な口調の物語を語りつつ筋を展開した。もとは中国におこって寛永(かんえい)(1624~44)ごろに長崎に渡来したというがさだかではない。江戸中期には縁日祭礼の見せ物となっていたようである。最初は絵だけを見せる簡単なものであったが、のちに流行の歌祭文(うたざいもん)と結び付き口説(くどき)節を取り入れて、『お七吉三(きちさ)』『お半長右衛門(ちょうえもん)』『お染久松』といった歌舞伎種(かぶきだね)や、明治末には新派の『不如婦(ほととぎす)』『己(おの)が罪(つみ)』などから『肉弾三勇士』などの時局物まで幅の広い演目を有していた。「地獄極楽」に代表される辻(つじ)説教の歴史も一方にもちつつ、第二次世界大戦後にまでその伝統が細々と伝えられていたが、今日ではほとんどみることができない。
[織田紘二]
『山本慶一他著『芸双書8 えとく――紙芝居・のぞきからくり・写し絵の世界』(1982・白水社)』