日本大百科全書(ニッポニカ) 「ハイヌウェレ」の意味・わかりやすい解説
ハイヌウェレ
はいぬうぇれ
Hainuwele
インドネシアの死体化生(けしょう)神話の主人公の名。この神話を研究したイェンゼンは、それにちなんで、死体から作物が発生する形式の神話を「ハイヌウェレ型神話」と命名した。東部インドネシアのセラム島西部に住むウェマーレ人の神話によると、原初、アメタという男が、死んだ猪(いのしし)の牙(きば)についていたココヤシの実を家に持ち帰って植えた。ヤシの花に彼の指の血が滴ると、そこから少女が生じた。これがハイヌウェレ(ウェマーレ語で「椰子(やし)の枝」の意)で、3日で年ごろの娘となった彼女が用便をすると、その排泄(はいせつ)物は中国製の皿や銅鑼(どら)のような財宝であったので、アメタは金持ちになった。ところがハイヌウェレは、9夜続くマロ踊りのとき、彼女の超自然力を不気味に思う人たちによって穴の中に投げ込まれ、生き埋めにされたうえ踏み殺されてしまった。アメタは彼女の死体を掘り出して多くの断片に切り刻み、それを舞踏広場のあちこちに植えた。すると、いままでまだ地上になかったヤムイモとタロイモが生じて、以後彼らの常食物となったという。同様な死体からの作物起源神話は、インドネシア、メラネシア、南アメリカなどに分布し、古代日本の大気都比売神(おおげつひめのかみ)あるいは保食神(うけもちのかみ)が殺されてその死体から作物が発生したという神話も、このハイヌウェレ型神話に入る。この形式は、世界的にはイモ類や果樹の栽培と関連していることも多い。
[大林太良]
『A・イェンゼン著、大林太良他訳『殺された女神』(1977・弘文堂)』▽『大林太良著『稲作の神話』(1973・弘文堂)』