( 1 )語源的には「は」「も」いずれも係助詞であるが、文中用法の場合「も」の方は間投機能、文末用法では二語とも間投機能を担っていると考えられる。
( 2 )文中用法は上代にも少なく、中古以降はほとんど見られなくなる。
( 3 )②の用法は和歌にみられるが、中古の例も含めて、ほとんどすべて体言を受ける「喚体の句」の例であり、いわゆる「述体の句」を受けるのは、「万葉‐四四一九」の「家ろには葦火(あしふ)焚けども住み良けを筑紫に至りて恋ふしけも波母(ハモ)」一例のみである。ただし、この例に関しては「恋しけむはも」ではなく「恋しく思はむ」の東国語形であるとの説がある。
( 4 )「万葉‐三五一三」の「夕さればみ山を去らぬ布雲(にのぐも)の何(あぜ)か絶えむと言ひし児ら婆母(ハモ)」、「万葉‐三五六九」の「防人に立ちし朝明の金門(かなと)出に手離れ惜しみ泣きし児ら婆母(ハモ)」の例を「ばも」とよみ、「はも」の上代方言とする説〔日本古典文学大系=万葉集〕もあるが、「万葉‐一七一」にも「島婆母」の例があるので、これも濁音と認めねばならぬか否か決め難い。
硬骨魚綱ウナギ目ハモ科の魚類の総称、またはそのなかの1種。日本近海に分布するハモ科Muraenesocidaeは、ハモ属Muraenesoxの2種(ハモ、スズハモ)、ハシナガアナゴ属Oxycongerの1種(ハシナガアナゴ)、ワタクズハモ属Gavialicepsの1種(ワタクズハモ)の4種が知られている。
[浅野博利・尼岡邦夫 2019年2月18日]
ハモ属は、吻(ふん)がやや突出し、上下両顎(りょうがく)の歯が数列に並び、その1列の前方のものは犬歯状である。鋤骨(じょこつ)(頭蓋(とうがい)床の最前端にある骨)の中央列歯も大きな犬歯状となっている。また、前鼻孔(ぜんびこう)は吻端の近くにあり、尾部の長さが吻端から肛門(こうもん)までの距離よりも長いことなどの特徴がある。
和名ハモMuraenesox cinereus(英名daggertooth pike conger)は、福島県以南の太平洋沿岸、青森県以南の日本海沿岸、東シナ海、朝鮮半島、南シナ海、オーストラリア北岸、紅海などインド洋・西太平洋に広く分布する。北海道や東北地方では別種のマアナゴのことをハモとよぶので注意を要する。体はやや側扁(そくへん)する。吻は著しく突出しない。口は大きく、目の後方まで開く。上顎の歯は4~5列で、下顎歯と鋤骨歯は3列に並び、両顎の前端部の歯は肥大する。鋤骨の中央列歯は大きくて、側扁し、前後に小突起をもち、三尖頭(さんせんとう)になる。側線孔数は146~154個で、そのうち肛門上方までに40~47個。背びれは鰓孔(さいこう)の上方から、臀(しり)びれは肛門直後から始まり、後端で尾びれとつながる。肛門上方までの背びれ軟条数は66~78個、脊椎(せきつい)骨数は142~159個。背部は暗褐色~紫褐色で腹部は白色を帯びる。背びれ、臀びれおよび尾びれの縁辺は黒い。胸びれの内側は暗灰色である。産卵は沿岸水域の水深35~60メートルの砂泥底または泥底で行われ、産卵期は紀伊水道では6~7月、周防灘(すおうなだ)では7~9月。孵化仔魚(ふかしぎょ)は全長3.0~3.4ミリメートル。透明なレプトセファルス(葉形(ようけい)幼生)期を経て成長し、葉形幼生の最大形は約100~115ミリメートルになる。8月下旬~10月に変態し、変態完了期のものは約75ミリメートルに縮小する。変態中期の終わりごろから水底に降下し、水温20℃内外では約15日間で変態を完了する。周防灘にすむハモの耳石(じせき)の鱗紋(りんもん)の調査によって推定された成長状態は、雌では2歳で28.3センチメートル、10歳で99センチメートルに、雄では3歳で26.8センチメートル、9歳で67センチメートルになることがわかった。雌は雄より成長がよい。全長は最大で2.2メートルに達する。岩礁の間や近海の砂底にすみ、甲殻類、魚類、頭足類などを捕食する。夜行性。おもに底引網で漁獲されるが、延縄(はえなわ)、引縄などでもとれる。漁獲量は東シナ海が多い。夏に美味で、関西ではとくに賞味する。小骨(肉間骨)が多く、骨切りや骨抜きをして照焼き、酢の物などに調理する。
近縁種のスズハモは、外見はハモとよく似ており、魚市場などでは一般に両種を区別せずにハモとよんでいる。(詳細は「スズハモ」の項を参照)。
[浅野博利・尼岡邦夫 2019年2月18日]
ハシナガアナゴ属は、吻が甚だ長くて先端がとがる。上下両顎の歯は3列で、そのうちの中央列に長い犬歯がまばらにあり、鋤骨の歯が小さい。前鼻孔は吻の中央近くにある。また、尾部の長さは吻端から肛門部までの長さより短いなどの特徴がある。
和名ハシナガアナゴOxyconger leptognathus(英名shorttail pike conger)は前述の属の特徴のほかに、体は一様に暗褐色で、背びれ、尾びれと臀びれ後方の縁は黒色を帯びる。熊野灘、土佐湾、長崎県佐世保(させぼ)、台湾南部、広東(カントン)省の沿岸、オーストラリア東・西岸に分布する。全長は60センチメートルになる。水深250~300メートルの海底付近にすみ、底引網で漁獲され、練り製品の材料にされる。
[浅野博利・尼岡邦夫 2019年2月18日]
ワタクズハモ属は胸びれがないか、あっても痕跡(こんせき)的で小さい。吻はくちばし状に長く突出する。尾部は著しく細長く伸長し、尾端部が著しく細い。尾部長が体の残りの部分より長い。鋤骨歯はおよそ3列で、中央列歯が大きい。
和名ワタクズハモGavialiceps taiwanensisは体と表皮が柔らかい。頭は小さく、その断面はおよそ三角形。前鼻孔は吻端よりやや後ろに位置する。体は一様に淡褐色で、鰓膜(さいまく)は黒い。土佐湾、沖縄舟状海盆(しゅうじょうかいぼん)(トラフ)、台湾南部などの西太平洋に分布する。全長は約80センチメートルになる。水深300~750メートルにすみ、底引網でまれにとれる。食用にはしない。
[浅野博利・尼岡邦夫 2019年2月18日]
ハモは関西から西の地方で好まれている魚である。とくに京都の祇園(ぎおん)祭、大阪の天神祭には欠かせないもので、この時季のものを祭りハモともよんでいる。ハモは小骨が多く、しかも肉と皮の間に入り組んで抜き取れないので、かならず骨切りをする。骨切りは、開いた身を、皮を下にしてまな板に置き、ハモ切り包丁で皮を切らないように細かく包丁目を入れる。これを照焼き、てんぷら、すし、酢の物、椀種(わんだね)、鍋物(なべもの)、マツタケの土瓶蒸しなどに用いる。さっと湯通しして冷水に放ったものは京都で切り落とし、大阪ではハモちりとよび、梅肉酢で食べる。ハモの肉はうま味が強いので、上等のかまぼこの味つけ材料にも用いられる。大阪では、かまぼこ用に身をそいだあとのハモの皮を焼いて売っており、これを細く刻み、キュウリと酢の物にしたものはハモざくといって庶民の味の一つとなっている。
[河野友美]
『苗村忠男・高見浩著『鱧料理――京都が育んだ味と技術』(1999・旭屋出版)』
ウナギ目ハモ科の海産魚。ハム(広島,高知)などの地方名がある。本州中部以南,とくに瀬戸内海,四国,九州に多いが,さらに朝鮮半島,台湾,東インド諸島,インド洋,紅海にわたって広く分布する。北海道,東北地方でハモと呼んでいるのはマアナゴのことである。体は円筒形で長く,尾部は側扁する。吻(ふん)は突出し,口も大きく,上下両あごに数列の鋭い歯があり,口蓋部の鋤骨(じよこつ)にも強大な歯がある。これらの特徴によってハミ(蝮蛇)に似るところからハム,ハモの名が付されたといわれる。なお,名称については,うろこがなく肌が見える(はたみゆ),歯持(はもち)などに由来するとする説もある。体の背側は灰褐色,腹側は銀白色,背びれ,しりびれの外縁は黒い。腹びれはない。全長2m程度。
沿岸の深みにすみ,昼間は海底の砂の中や岩の間に身を潜め,夜間活発に魚貝類を捕食する。産卵期は5~9月で,沿岸域で産卵し,孵化(ふか)した仔魚(しぎよ)はレプトセファラスで,全長110mmほどになるが,変態直後の稚魚(ちぎよ)(シラス)は75mm程度に短縮する。機船底引網やはえなわで漁獲される。
執筆者:日比谷 京
ハモは淡泊で美味な魚だが,骨切りという操作を加えないと小骨が多いので著しく食味を減ずる。その骨切りであるが,開いたハモの身のほうから2~3mm間隔で,皮だけは切らぬように包丁を入れるというむずかしい技術である。関西ではごくあたりまえのことになっているが,東京ではいまだにそれのできない魚屋や料理人がいる。この技法がいつごろ考案されたかさだかではないが,1730年(享保15)刊の《料理網目調味抄》あたりが文献上の初見らしい。それ以前の《本朝食鑑》(1697)や《大和本草》(1709)は,かまぼこがもっともよいとしている。ところで《和名抄》は,ウナギの味についてはまったく無視していながら,ハモは美味だとしている。すり身にすることも骨切りも知らなかった平安時代の日本人は,どんな食べ方をしていたものであろうか。江戸後期には《海鰻百珍(はむひやくちん)》(1795)が刊行され,120種ものハモ料理を紹介した。現在行われるおもな料理は,湯引き,照焼き,蒲焼,酢の物などで,わん種やかまぼこにも使う。湯引きはハモのおとし,ハモちりなどとも呼ばれ,骨切りしたものを2~3cm程度に切り,さっと熱湯を通して氷水で冷やし,いり酒,からし酢みそ,梅肉じょうゆなどで食べる。いり酒は,清酒1カップに梅干し2~3個,それにコンブ,鰹節,しょうゆ,みりんなどを少し加えて煮詰めてこしたもの,梅肉じょうゆは梅干しを裏ごしにしてみりんと淡口しょうゆでのばしたものである。ハモ料理は京都の祇園祭のつきもので,そのころになると魚屋の店先で照焼きにするにおいが町に流れている。なお,ハモの皮をしょうゆで付け焼きにして刻み,キュウリもみと合わせたものは京阪地方の夏の惣菜として親しまれ,大正期の作家上司小剣(かみつかさしようけん)には《鱧の皮》(1914)という関西情緒ゆたかな好短編がある。
執筆者:鈴木 晋一
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