日本大百科全書(ニッポニカ) 「バナナ」の意味・わかりやすい解説
バナナ
ばなな
banana
バショウ科(APG分類:バショウ科)バショウ属Musaの英語名であるが、一般には果実を食用・料理用とするものをさす。
[飯塚宗夫 2019年6月18日]
特性
バショウ科の常緑多年草で、高さは2~10メートルに達する。根には定着根と栄養根がある。茎は葉鞘(ようしょう)が互いに抱き合ってできた円柱状の擬茎で、上端から葉身を叢生(そうせい)する。花茎は葉叢基部から抽出する。この際に直立性の花序をつけるフェイバナナfei group./M. maclayi Mac.を除き、花茎は伸びるにつれて垂れ下がり、その先端に擬宝珠(ぎぼし)状に包葉をつけ、包葉が先部のつぼみを包む。花は各包葉の腋部(えきぶ)に2列につく。その花序の基部に雌花を、中央部に両性花を、先部に雄花をつける。雄花は雄しべ5本、雌花は雌しべ1本で、子房は3室。果実は、野生型は多くの種子をつけるが、栽培型には種子はほとんどない。種子は灰黒色、不斉の球形で径は3~4ミリメートル。各果房を果掌(かしょう)hand、各果実を果指(かし)fingerとよび、生食用種で長さ6~20センチメートル、径2.5センチメートルであるが、料理用種には長さ30センチメートル、径7センチメートルに達するものもある。果指数は20~3000、果色は淡黄から褐赤色で、香り、味ともに濃淡の変異が大きい。結果すると擬茎は枯れ、新しい擬茎が育つ。
[飯塚宗夫 2019年6月18日]
起源
バナナの起源は複雑で、近縁種も多い。おもな種は、東南アジアに分布するユームサEumusa節(染色体数2n=22、以下同じ)に属する十数種、ニューギニアに分布し、オーストラリムサAustralimusa節(2n=20)に属するフェイバナナほか数種、東南アジアに分布し、ロドクラミRhodochlamys節(2n=22)、あるいはカリムサCallimusa節(2n=20)に属する各数種がある。これらのうち食用種のおもなものは、ユームサのムサ・アクミナータM. acuminata Colla(2n=22, ゲノム式AA、以下同じ)と、ムサ・バルビシアナM. balbisiana Colla(2n=22, BB)を基本種としてできている。ムサ・アクミナータは、11本の染色体組を基本とするAゲノムをもち、栽培種には、2倍、3倍、4倍(AA, AAA, AAAA)の倍数関係がみられ、一般的に種子がない。この種子なし性は、種子がなくても果実が発育する単為結果性と、種子不稔(ふねん)性の形質とをあわせもつことによって発現する。ムサ・バルビシアナはBゲノムをもち、二倍体(BB)で種子ができる。これと、花粉は正常であるが種子ができないAゲノムをもつ各系統とを交雑し、種子なし性のABのほか、三倍性のAAB, ABBや、四倍性のAAAB, AABB, ABBBなどができ、広く栽培されてきた。なかでもAA, AAA, AAB, ABBにはよい品種が多い。
これらは、果実に糖分が多く、生食に適する品種と、デンプンの多い料理用品種とに大別される。いずれもバナナと通称しているが、狭義には、前者をバナナ、後者をプランテインplantainとよんで区別する。フェイバナナはプランテインに属するが、生食もされる。
バショウ属にはこのほかに、日本南部に芭蕉布(ばしょうふ)の原料となるイトバショウ(別名リュウキュウバショウ)が、フィリピンやボルネオには、マニラ麻の原料となるマニラアサManila hemp(別名アバカabaca)が分布し、いずれも食用バナナに近縁である。本属に近いエンセテ属Enseteはニューギニアからアフリカ中央部に分布し、擬茎からデンプンや繊維をとる種もある。
[飯塚宗夫 2019年6月18日]
栽培史
ニューギニアからインドシナ半島にかけては5000年から1万年の順化歴をもつ。初め野生のムサ・アクミナータ(AA)から単為結果性のある系統が選抜され、ついで受粉受精しても種子の発育しない種子不稔性がある系統が選抜され、完全な種子なしバナナが成立した。この種なしバナナの拡散とともに、ムサ・バルビシアナ(BB)との雑種や、三倍性、四倍性バナナができ、利用地域も東西に広がった。東は太平洋の島々からオセアニアに、西はインドに、またマダガスカルからアフリカにも伝わった。アレクサンドロス大王は東征時にインダス川上流で初めてバナナを見たが、ヨーロッパへの導入は1482年にギニアからポルトガル人によって行われた。新大陸には発見後まもなくスペイン人により、サント・ドミンゴに導入された。今日では亜熱帯や熱帯のもっとも一般的な果樹となり、生産と消費の両面から世界に普及した。
[飯塚宗夫 2019年6月18日]
栽培・品種
気温10℃以上の地方で、腐植質に富む排水のよい土壌に適する。繁殖は分げつ芽によるが、成長点培養法による無病繁殖苗も用いられている。定植は2.5~3メートル四方に1本とする。植え付け後1年で開花結実が始まる。更新は6年前後に行う。品種は多く、地方的な変異が多い。グローミッチェルGros Michel(AAA)は西インド諸島で産まれ、草丈も高く、果実が大きく豊産で香りもよい。しかし、パナマ病と斑葉(はんよう)病に弱く、風にも弱い。わずかに雌性稔性があり、雌性親として育種母材とする。台湾の北蕉(ほくしょう)はこれに類し、品質がよく日本向けとする。パナマ病にも強く、草丈は低く、豊産で味も比較的よいカーベンディッシュCavendish(AAA)が普及しているが、これは斑葉病とネマトーダ(線虫類)に弱い。二倍種(AA)ではバンクシーBanksii、マラッカエンシスMalaccensis、ミクロカルパMicrocarpaのほか数系統と、A・B雑種のサピエンタムSapientum系に品種が多い。
世界の生産量(2016)は生食用バナナが1億1328万トン、料理用バナナ(プランテイン)が3506万トンで、前者はアジア、南アメリカ、中央アメリカに多く、とくにインド、中国、インドネシア、ブラジル、エクアドルに多い。後者はアフリカ、南アメリカ、アジアの順で、カメルーン、ガーナ、ウガンダ、コロンビアなどに多い。日本では生果96万トン(2016)を輸入するが、おもな輸入先はフィリピンが大半を占め(全輸入量の79%)、ついでエクアドル(同16%)である。
[飯塚宗夫 2019年6月18日]
加工・利用
輸出用は完熟前の果穂を収穫し、薬液による洗浄を行ったのち出荷される。輸入された未完熟果は室(むろ)に入れ、16.7~20.0℃のもとで1、2昼夜置いて呼吸を高め、果肉の糖化と果皮の黄化を促進する。促進が終われば逆に冷却処理をして、熟度の進行を抑える。
果実は糖質(22.6%)、ビタミンB1・B2・Cのほか、カロチンを含み、また鉄、カルシウムなどの無機質もあり、生果実100グラム中に87カロリーを含む。生食のほか、サラダ、シャーベット、菓子材料などに用いるほか、ウイスキー、果実酒、アルコール原料にもする。乾燥果実として、菓子・煮食用ともする。料理用バナナは加熱処理をして食べるもので、皮のまま蒸し焼き、剥皮(はくひ)してトースト、煮込みなどと用途は広い。未熟の雄花部は野菜として広く用いられ、Bゲノムをもつ系統がよい。葉は包装に用い、擬茎からは繊維をとり、擬茎や地下茎部からは汁液をとり胃腸薬とする。
[飯塚宗夫 2019年6月18日]