ウイスキー(読み)ういすきー(英語表記)whisky

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ウイスキー」の意味・わかりやすい解説

ウイスキー
ういすきー
whisky
whiskey

蒸留酒の一種。オオムギ麦芽で穀類のデンプンを糖化、発酵させてもろみをつくり、蒸留して得られたスピリッツをホワイトオークの樽(たる)で熟成させ、その風味を特徴とする蒸留酒である。発芽させたオオムギ麦芽だけを原料とし、単式蒸留釜(がま)で蒸留したものをモルトウイスキー、発芽させた穀類のほか、未発芽の穀類(トウモロコシなど)を原料とし、連続蒸留機で蒸留したものをグレンウイスキーとよび、日本の酒税法ではともに原酒とし、両者の混合したもの、法定限度以内のアルコール、香味料や色素などを使用したものもウイスキーである。酒税については、日本では1989年(平成1)に級別制度が廃止され、従量税となった。

[秋山裕一]

歴史

ウイスキーということばは、ケルト語で「生命の水」という意のウシュク・ベーハーuisge beathaの変化したusquebaughからきており、このウスケボーからウイスキーになったといわれる。アイルランドとアメリカのウイスキーにはwhiskeyとeを入れて書く習いになっている。

 蒸留という技術は、紀元前3世紀ごろ古代ギリシアのアリストテレスにより記述されており、アラビア人は錬金術の手段としてこれを実用化し、「アランビック」といった。これが世界の蒸留技術の起源と考えられている。東南アジア、中国や日本でも蒸留機のことをランビキといったり、蒸留酒のことをアラック、阿剌吉(あらき)と長い間よんできた。ヨーロッパでも蒸留機のことをアランビックといっている。しかし、蒸留酒のつくられたのは10世紀以後のことで、主として南ヨーロッパを中心に発達し、その土地に多い農産物を原料としていた。ラテン語でアクア・ビタaqua vitae、フランス語でオー・ド・ビーeau-de-vieとよばれ、いずれも「生命の水」の意をもつ。ウイスキーもケルト語の「生命の水」の意からきているが、ケルト人がどういう経路で蒸留技術を得たかは不明である。

 ウイスキーの起源は明らかでないが、1170年ヘンリー2世のアイルランド遠征時には、すでにアイルランドで蒸留酒がつくられていたとされている。15世紀からはスコットランドでも記録が現れるが、現在のスコッチウイスキーの製造技術が確立したのは19世紀なかばである。18世紀前半の麦芽税、後半の相次ぐ増税、さらには小容量の釜の禁止などによって、小規模生産者は山中に隠れて麦芽だけを原料としてウスケボーをつくり、これがのちに樽熟成と結び付いてモルトウイスキーに発展した。モルトウイスキーでは麦芽乾燥時にピート(泥炭)でスモーキーフレーバー(燻煙(くんえん)香)をつけるが、これも乾燥に泥炭を使用した密造時代の名残(なごり)といえる。モルトウイスキーは単式蒸留機でアルコール濃度も低く蒸留され、樽熟成による風味の向上も著しかった。1826年ロバート・シュタイン、続いてコフィーによって連続式蒸留機(パテントスチル)が発明され(1831年特許)、これによって穀類を原料としたグレンウイスキーがつくられ始めた。グレンウイスキーはアルコール濃度を高く蒸留するので、非常に性質が落ち着いている。19世紀のなかば、ヨーロッパのブドウがフィロキセラブドウネアブラムシ)の虫害によって、ワイン、コニャックの生産が大打撃を受けたことや、性質の強いモルトウイスキーを温和なグレンウイスキーと混合することにより大量生産を可能として、さらに万人が受け入れやすい風味とすることにより、スコッチは世界的となった。1877年には、ウイスキー会社が集まって英国蒸留者協会(DCL)が発足し、政府と協力しつつ、次々と製造業者を吸収し、スコッチの五大ウイスキーメーカー(ホワイト・ラベル、ジョニー・ウォーカー、ブラック・アンド・ホワイト、ホワイト・ホース、ジョン・ヘイグ)がこれに参加して、当時ウイスキー取引の60%を抑えるまでに大きくなった。最近は、スコッチウイスキー会社の経営権の移転や資本参加など変動が大きい。一方、在来のモルトウイスキーの愛好者はこれを本物のウイスキーとし、1909年王室委員会で、今日のウイスキーの定義が決定されるまで、「ウイスキーとはなんぞや」の大論争が行われた。そして、イギリスでは、穀類を麦芽などで糖化し、発酵もろみをスコットランドで蒸留し、樫樽(かしたる)に3年以上貯蔵したものがスコッチウイスキーであるということで決着した。

 ウイスキーはイギリスのほか各国で大量に生産されており、アイルランドではアイリッシュウイスキー、カナダではカナディアンウイスキーとして独得の発展をしている。アメリカではケンタッキー州バーボン郡でトウモロコシを主原料としたバーボンウイスキーが生まれ、今日、アメリカンウイスキーの代表的存在となっている。

 日本では明治になってアルコールが輸入され、模造の清酒(後の合成清酒)やウイスキーなどがつくられたが、本格的なウイスキーは1924年(大正13)、寿屋(ことぶきや)山崎工場(現サントリー山崎蒸留所)において初めて製造された。建設当時の技師長竹鶴政孝(たけつるまさたか)は大阪高等工業学校(現大阪大学)醸造科を卒業後、大阪の摂津酒造の技師となったが、1918年スコットランドのグラスゴー大学に留学し、日本人として初めてウイスキーの製造法を学んだ。帰国後、寿屋の創始者鳥井信治郎(とりいしんじろう)のもとで、1923年山崎工場の建設に携わった。1929年(昭和4)サントリーウイスキー白札(しろふだ)が日本最初のウイスキーとして発売された。竹鶴はのちに独立して1931年北海道余市(よいち)に今日のニッカウヰスキー会社を創設した。また、神奈川県藤沢市にトミーウイスキーがあった。日本のウイスキーはスコッチウイスキーを師として発展したが、日本人の嗜好(しこう)にあわせ、また日本の原料事情を加味した製造研究がなされ、改良が加えられている。第二次世界大戦後は原料事情からウイスキー原酒との調合に、糖密(とうみつ)からとったニュートラルスピリッツが使用されていたが、1964年(昭和39)ごろからグレンウイスキーの製造も開始され、原酒の混和率も高まり、品質も向上し、ジャパニーズウイスキーとして、スモーキーフレーバーの軽い、水割りに向くようなライトなタイプとして成長している。1989年(平成1)の酒税法改正によりウイスキーの関税が引下げになり、輸入ウイスキーの価格は低下したが、高アルコール酒類の消費が世界的に減退しており、日本での消費も減少している。

[秋山裕一]

製法

モルトウイスキーの製法は、オオムギを発芽させ、乾燥時にピートを燃やし、燻煙香をつける。乾燥麦芽は粉砕し、約4倍量の熱水を加えて、60~65℃に保ち、デンプンを糖化させ、25℃以下まで冷却して、酵母を加えて発酵させる。アルコール分7%内外のもろみが得られる。これをポットスチルで蒸留するが、初留釜と再留釜と2回の蒸留が行われ、中留区分のアルコール分65%内外の部分が、ホワイトオークの貯蔵樽に移され、3年以上の熟成を待つ。樽はシェリーやバーボンウイスキーの空き樽が使用されている。樽材から香味に関与する微量成分が浸出して、着色され、ウイスキー成分と反応し、風味が向上する。この風味のバランスをとり製品とする。ブレンド用のグレンウイスキーは、おもにトウモロコシを麦芽で糖化し、発酵させて、連続式蒸留機で蒸留されて(アルコール分93~94%)つくられる。

[秋山裕一]

種類

原料別または産地別に分類される。

(1)原料別分類 麦芽のみを使用するものをモルトウイスキー、麦芽以外にトウモロコシやライムギを用いるものをグレンウイスキーという。また、モルトウイスキーとグレンウイスキーを混合したものをブレンデッドウイスキーという。

(2)産地別分類 スコッチウイスキー(イギリス)、アイリッシュウイスキー(アイルランド)、アメリカンウイスキー(アメリカ)、カナディアンウイスキー(カナダ)、ジャパニーズウイスキー(日本)などに分かれ、それぞれに独得の香味をもつ。

 スコッチウイスキーは、穀類のもろみを蒸留したもので、麦芽で糖化し、酵母で発酵し、スコットランドで蒸留し、樽に3年以上貯蔵したものである。おびただしい数の銘柄があるが、日本ではジョニー・ウォーカー、ホワイト・ラベル、ホワイト・ホース、ジョン・ヘイグ、ブラック・アンド・ホワイトやキング・オブ・キングス、オールド・パーなどが古くから著名である。そのほか、ライトなタイプとしては、カティー・サーク、J&Bなど、純モルトウイスキーとしてはザ・グレンリベットなどが輸入されている。ラベルにたとえば12 years oldと記されている場合は、調合したウイスキーのうち、もっとも貯蔵年数の短いものの年数を示している。蒸留所の所在地によって、ハイランド(パース以北の高地帯、主産地)、ローランド(エジンバラ、グラスゴーなどローランド地方)、アイレー(アイレー島)、キャンベルタウンの四つに分けられる。

 アイリッシュ(ストレート)ウイスキーはウイスキーの原型といわれ、特色は麦芽の乾燥にピートを用いないので煙臭がない。原料は麦芽、未発芽オオムギ、トウモロコシ、ライムギ、エンバクなどを混用し、大型のポットスチル式で蒸留を3回行う。オオムギ特有の香りがあり、味は軽い。近年はグレンウイスキーとブレンドされたブレンデッドウイスキーが多い。おもな銘柄にジョン・パワー、ジョン・ジェムソン、オールド・ブッシュミルズ、タラモア・デュウがある。

 アメリカンウイスキーは多くの種類があるが、ほとんど強烈な性格のストレート・バーボンウイスキーとソフトなタイプのブレンデッドウイスキーである。ストレート・バーボンウイスキーは、原料に51%以上のトウモロコシを使用すること、貯蔵用樽は内面を焼いた新樽を用いることが規定されている。またサワー・マッシュという乳酸菌を用いる特有の発酵法をとるところもあり、バーボンの「こく」の一部はこの独特の発酵法によるとされている。ジャック・ダニエル、オールド・クローなどが有名である。

 カナディアンウイスキーは、カナダでたくさんとれるムギやトウモロコシを使うもので、原料、製法ともにアメリカンウイスキーに似るが、蒸留法や熟成法の違いで世界のウイスキー中もっともライトなのが特色である。主要銘柄はカナディアン・クラブ、シーグラム、シェンレー、マックギネスなどである。

 ジャパニーズウイスキーは基本的にはスコッチタイプであるが、日本人の嗜好を入れてスモーキーの香りを控え、さらに水割りの飲用が多いので、味、色調を主体につくられている。価格は原酒の混和率やアルコール度数など品質の差から格差がつけられている。成分的にはアルコール分が43%、40%、37~39%と三様に大別される。揮発成分では風味に関与する高級アルコール分(いわゆるフーゼル油分)は原酒に多く、したがって高価なものほど香味成分の含量が多い傾向であるが、蒸留法によっても微妙にその組成が異なり、タイプの特色を形づくっている。

[秋山裕一]

飲み方

ウイスキーには特有の風味があるから、それを楽しみながら飲む。そのためには、そのままストレートで、ウイスキーグラス(30~60ミリリットル容)にウイスキーを入れ、傍らに冷たい水を置き、交互に飲むのがよい。「水割り」はウイスキーを2~5倍量の冷水で割ったものである。オンザロックはオールド・ファッション・グラス(120~180ミリリットル容)に氷片を入れて、この上からウイスキーを注ぐ。「シングル」または「ダブル」というのは、ジガー(計量カップ)に1杯(30ミリリットル)とか2杯のことをいい、ダブルのアルコール量が清酒の180ミリリットル(1合)、ビール大瓶1本に相当する。ハイボールhighballは、一般に蒸留酒またはアペリチフ、シェリーをソーダで割った飲み物をいうが、ウイスキーもハイボールにしてよく飲まれる。ウイスキーをベースにしたカクテルもいろいろあるが、マンハッタンは有名で、ウイスキーとベルモットを2対1の割合で混ぜ、ビターズ、氷片を加え、チェリー1個を飾り、レモンの香りをつけて供する。

[秋山裕一]

『梅棹忠夫・開高健監修『ウイスキー博物館』(1979・講談社)』『大塚謙一編『醸造学』(1981・養賢堂)』『ダイヤモンド社編・刊『ザ・スコッチウイスキー』(1982)』『杉森久英著『美酒一代』(1983・毎日新聞社)』『土屋守著『モルトウィスキー大全』(1995・小学館)』


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ウイスキー」の意味・わかりやすい解説

ウイスキー
whiskey; whisky

大麦などの穀類を原料とし,それに含まれるデンプンを,麦芽で糖化・発酵,蒸留して得られるアルコール濃度の高い蒸留酒。オーク製の樽で長期間熟成させて生れる独特の風味をもつ。名称は,ケルト語系のアイルランドやスコットランド北部で使われたゲーリック語の,ウシュク・ベーハー uisge beatha (生命の水) に由来する。現在世界の代表的ウイスキー生産国はイギリス (スコットランド) ,アイルランド,アメリカ,カナダ,日本の5ヵ国で,それぞれに原料や製造法に特徴があり,それがその国のウイスキーの風味にも反映している。日本やスコットランドでは,まず薫香をつけた大麦麦芽を原料とし,単純な構造のポットスチルで蒸留される複雑な味をもつモルトウイスキーと,とうもろこしが主体で,連続蒸留機によるグレインウイスキーの2つのタイプがつくられるが,市場に出るのは,両者を配合したブレンデッドウイスキーがほとんどである。

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