翻訳|macrophage
大食細胞ともいう。食細胞の発見者であるE.メチニコフは,脊椎動物の食細胞のうち,顆粒球(多形核白血球)をミクロファージmicrophage(小食細胞),大型でアメーバ状のものをマクロファージと命名した。マクロファージと形態も機能も似ている細胞は全動物界に普遍的である。無脊椎動物でのそれらの細胞は,動物種や研究者の違いによって,種々の名称で呼ばれているが,一括してマクロファージと総称される。
マクロファージは,白血球のうち,系統発生的に最も歴史が古い。単細胞動物(原生動物)は,いわば個体全体がマクロファージであるともいえる。現存の多細胞動物で,最下等に位置づけられている海綿動物では,間充ゲル層(中膠(ちゆうこう))に原生細胞と呼ばれるマクロファージが存在する。
マクロファージの個体発生的起源については不明の点が多い。高等脊椎動物では,ほとんどのマクロファージ(すべてという主張もある)は血液の単球に由来し,それらを単核食細胞系と呼ぶことがある。単球は全身のどこの炎症部位にも浸潤し,遊走性マクロファージになる。一方,肺胞,リンパ組織,骨髄での常在性マクロファージ,肝臓のクッパー細胞,神経組織の小膠細胞,骨の破骨細胞,結合組織や皮膚の常在性組織球などは,定着性マクロファージである。
マクロファージの最も基本的な機能は食作用である。細胞膜に接触した異物を偽足でとり囲むことによって食胞を形成し,次いでリソソームと癒合して,リソソーム酵素によって食胞内容物を消化する。脊椎動物では,抗体のFc末端や補体に対する受容体があり,それらの結合した物体を能率よく捕食する。このように,食作用を助ける物質はオプソニンopsoninと総称されている。
マクロファージは胚(胎児)における形態形成のトリミング細胞として,成体においても変性あるいは変異細胞(癌細胞を含む)の処理細胞としても重要な働きを示し,動物の生存に不可欠の細胞である。
執筆者:村松 繁
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動物体のすべての組織に出現する遊走性の大形細胞で、生体に侵入した異物や細菌、あるいは体内に生じた変性物質を食べ込む。大食胞、大食細胞、貪食細胞(どんしょくさいぼう)、または組織球ともいう。マクロファージはとくに、炎症や外傷の際に活発なアメーバ様運動を示し、細胞の死骸(しがい)や破片、破壊されたさまざまの異物などを食べ込んで、組織内の清掃屋の役割を果たす。免疫学的にはマクロファージは、食べ込んだものの抗原性に関する情報をリンパ球に伝える。リンパ球はこの情報に応じて適切な抗体をつくる。マクロファージの起源については現在では、単球(白血球の一系統である単核の細胞)由来説が有力である。この説によれば、マクロファージの源となる細胞は骨髄で増殖し、血中に単球として出現し、血管から種々の臓器の結合組織内に入ってマクロファージに分化して活発な食細胞活動を示す、ということになる。
[新井康允]
大食細胞ともいう.生体の免疫系において中心的な防御機構を果たす15~20 μm の単核細胞.体内に進入した異物や細菌,老廃細胞を貧食作用により細胞内に取り込み,エステラーゼやリゾチームなどの強い消化酵素により分解する.高等動物では異物排除機能とともに,貧食した抗原物質の情報をヘルパーT細胞へ伝える抗原提示作用などのはたらきをもつ.特異的免疫の獲得や細胞のがん化抑止にも深くかかわり,インターフェロンやリンホカインにより活性化される.血液中の白血球に属する単球が組織で変化したものと考えられている.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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[炎症細胞]
多くの急性炎症では前述した白血球の中でも好中球が炎症細胞の主役であるが,アレルギー性炎症では好酸球が多く出現する。慢性炎症では単球,マクロファージ,形質細胞およびリンパ球が主体となる。なかでもマクロファージは最も活発に貪食作用を示す細胞で,その大部分は血液中の単球に由来することから,マクロファージと単球とを合わせて単核細胞貪食系mononuclear phagocytic systemと呼ばれている。…
…仮足を二つに広げて餌を包み込む動きは,餌から分泌される物質の濃度勾配によって引き起こされるのではないかと推定されているが詳しいことはまだわかっていない。アメーバが生きるために餌を食べるのは当然であるが,われわれの体中に無数に散在している白血球の一部(マクロファージなど)もバクテリアや細胞の断片などを食べている。この運動は固形物を取り入れるという点で食作用とみなされてきたが,アメーバのように仮足を出して包み込むのではなく細胞表面にへばりつけて管状にして取り入れる点では飲作用ともいえる。…
…その作用のほとんどは抗体部分のFc部分によって現される。そのおもなものは,好中性多核白血球,マクロファージ(大食細胞)などの食細胞への結合による食作用の促進(オプソニン作用),マクロファージの刺激による細胞障害作用の誘発(抗体依存性細胞障害作用,ADCC),肥満細胞や好塩基性白血球の刺激による炎症作用物質の放出,補体系の活性化などである。 抗体が以上のような作用を現すには,抗体がまず抗原と結合することが必要である。…
…上記の免疫の体液説に対して細胞説と呼ばれる。E.メチニコフは,感染を受けた生体から採った白血球やマクロファージ(大食細胞)は,病原微生物を貪食する能力が高まり,それが病原体に対する防御反応として働くと考えた。マクロファージの貪食作用のみを重視したメチニコフの考えは,当時の体液説の前では必ずしも説得力を発揮できなかったが,のちにいわゆる細胞性免疫として一括される,遅延型アレルギー,移植片拒絶反応,接触過敏症,リンパ球による標的細胞破壊など,抗体によらないで免疫系細胞によって起こってくるさまざまな反応が記載されるにおよんで,免疫なる現象のもう一つの大きな側面として再び浮かび上がってくる。…
…免疫応答に関与する細胞の総称。抗原の特異性に対応した,いわゆる特異的免疫を分担しているのはリンパ球であるが,非特異的免疫はおもにマクロファージとナチュラルキラー細胞の役割である。これらの細胞系は独立に働くこともあるが,相互作用によって機能を発現することが多い。…
※「マクロファージ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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