パラディオ主義(読み)パラディオしゅぎ(その他表記)Palladianism

改訂新版 世界大百科事典 「パラディオ主義」の意味・わかりやすい解説

パラディオ主義 (パラディオしゅぎ)
Palladianism

ルネサンスの建築家パラディオの著《建築四書》(1570)を通じ,または作品から直接影響され,その作風にならおうとする運動あるいは傾向を指す。パラディオの理論技法は一見単純で,作品もいくつかの典型的条件に対応する現実的な型としてとらえられ,しかもその開放的空間理念が魅力的であったために,ヨーロッパ各地に模倣・追随者を生み出した。なかでも,パラディオ没後ベネト地方の建築界に君臨したスカモッツィ,イギリス近世建築の祖イニゴ・ジョーンズらは有名。特殊な例として,1720-60年ころにかけて,イギリスのバーリントン伯爵の企てた建築界全体のパラディオ化があり,この結果,有産階級がこぞってパラディオ風のカントリー・ハウスを建てた。新古典主義期以後,パラディオ主義はロシアや新大陸にも及び,アメリカ大統領ジェファソン(みずからバージニア大学を設計)のような例もみられる。パラディオの影響は気を付けてみると,われわれのごく身近にまで及んでいる。たとえば,公共建築などで中央ドームのある主屋,両脇に低い翼部を配するといった構成は,彼の手法そのままであり,〈異人館〉の開放的ベランダなども,もとは彼の手法から出ている。建築以外の分野でもパラディオの影響には無視しえないものがあり,絵画におけるN.プッサンやルーベンス,文学におけるゲーテなどは,いずれも熱心なパラディオ主義者であった。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のパラディオ主義の言及

【オーダー】より

…オーダーの語を初めて円柱形式と結びつけ,〈五つのオーダー〉としたのは,セルリオの《建築の一般規準》(第4巻,1537)であったと見られる。これがさらにビニョーラにより洗練を加えられ,パラディオの《建築四書》(1570)にいたって実用的な原理として定着した。これ以後オーダーは,古典的建築教程の中心テーマとして権威づけられていくが,18世紀の新古典主義の理論家たちは,ローマ的なピラスターのような用法を排し,古代ギリシア風の構造的実体を伴う円柱形式の復活を主張し,古代ギリシアの神殿,なかでもアテナイのパルテノンをその最も完全な例として賛美し,近代の建築美学に大きな影響を与えた。…

【劇場】より

… 劇場建築の再興は,ルネサンス期におけるギリシア・ローマ古典劇の復原上演とともに始まった。ウィトルウィウスの建築書の記載内容の考証からは,イタリアのビチェンツァのアカデミーが建てたテアトロ・オリンピコ(A.パラディオ設計。1584)のごとき復古的な形式のものも生まれたが,宮廷などの建物内に組み込まれる劇場の大勢は,観客席がページェントの場ともなり,また貴顕の席ともなる平土間を包みながらも,大きくは正面の奥行きのある舞台空間に相対する形態のものへと向かった。…

【スタッコ】より

…これらの技巧はルネサンス時代に復活した。まず,室内の彩色スタッコ装飾が隆盛となり,次いで建築家パラディオが,煉瓦造建築の外壁をスタッコ仕上げにより石造に見せかける工法を普及させた。17世紀以降のバロック建築では,豪華な彫刻装飾がスタッコにより比較的安価につくられている例が多い。…

【トラス】より

…橋や鉄塔などでは4面あるいは3面の平面トラスを組み合わせた構造とするのがふつうで,任意の外力に対しては立体トラスとして働くことになるが,この場合でも設計の便宜上,一般には面内荷重の作用する平面トラスとして扱う。 何本かの木材を組み合わせた骨組みを最初に用いたのは16世紀イタリアの建築家A.パラディオであったが,その工法は一般には普及せず,建物などに使われるようになったのは18世紀に入ってからである。初めて橋桁にトラスを用いたトラス橋を架けたのはスイスのグルベンマン兄弟Johannes Grubenmann,Hans Ulrich G.で,18世紀中期にライン川上流などに支間長50mを超える木造トラス橋をいくつか建設している。…

【比例】より

…16世紀以降は,さらに新プラトン主義の影響による数の神秘主義が加わり,きわめて知的な古典主義的比例の体系が確立されていく。A.パラディオの《建築四書》に示された建物寸法は,すべてこうしたルネサンス的な比例によって与えられたものであった。しかしこの間,16世紀のマニエリスムの到来とともに,こうした静的な比例観に対しては批判が加えられるようになり,ミケランジェロにあっては,比例はもはや不変の美の規範ではなく,作家個人の手法に属するものとみなされるようになっていた。…

【別荘】より

…ルネサンス時代のイタリアでは,はじめティボリなどに貴族の別荘(ビラvilla)が建てられ,そこでは多くの樹木と噴水をそなえた庭園と,庭園に面するロッジア(開廊)をそなえた主屋からなる構成が発達した。やがて建築家パラディオが故郷ビチェンツァの近くに建てた多くのビラにおいて主屋の各側面にロッジアを設けたり,あるいは主屋と翼屋をロッジアで結ぶ様式が完成された。この様式はそれ以降のヨーロッパやアメリカの別荘や住宅建築に大きな影響を及ぼした。…

【窓】より

…ローマ帝政期にガラスの入った窓が出現し,ポンペイからは青銅の窓枠が出土している。大浴場の上部の半円形を縦三つに分割したガラス窓は,〈浴場窓thermal window〉または〈ディオクレティアヌス窓Diocletian window〉と呼ばれ,16世紀にイタリアの建築家パラディオが復興して以来好んで用いられた。ガラス以外にも大理石の薄板など半透明な材料も多く使われた。…

【マニエリスム】より

…これらの遺産の中からベルニーニがバロックの彫刻を生み出すこととなった。
[建築]
 建築では,古代ローマ建築の修復および発掘と,ミケランジェロの示した範例にもとづいて,16世紀初頭にウィトルウィウスの復活に見られるような古典復興がおこり,ビニョーラ(《建築の五つのオーダーの規範》1562)およびパラディオ(《建築四書》1570)は古典的建築理論の大家であった。彼らは,古典建築の諸原理を知りつくし,またそれを主知的に利用したことによって,〈手法主義〉的なマニエリストと考えることもできる。…

※「パラディオ主義」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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